小池百合子都知事と対立した都議会自民党。最大の実力者で、“ドン”と呼ばれた内田茂氏(78)=千代田区選挙区(定数1)=は政界を引退する。知事選で自民党東京都連が推薦した増田寛也・前岩手県知事が敗れ、幹事長を辞任した。
一方、小池都知事と自民党都連の代理戦争と呼ばれていた2月の千代田区長選でも、小池都知事支持の現職が5回目の当選。自民党推薦候補の3倍以上の得票だった。
こうした経緯もあり、都議選の注目選挙区となる千代田区。圧倒的不利な状況で、自民党からは新人・中村彩氏(27)が立候補した。
「高校時代から総理大臣になりたいと思っていた」
6月4日に開いた総決起大会でそう述べた中村候補。大学生のときは、自民党政経塾に通い、片山さつき参院議員の事務所でインターンもしていた。また一方、小池都知事が主宰する『希望の塾』にも参加。都民ファーストの会で立候補を考えた時期もあるが、最終的には自民党を選んだ。
「政党というのは何か。同じ主義、同じ理念を持って集まる団体。小池都知事のいう『東京大改革』は私も一致する。しかし、自分の利益を求めている団体となってしまったのが『都民ファーストの会』では?」
名称変更や離党しての合流などの会派再編は、離合集散のように見えたのだろう。両陣営で勉強をした目には、都民ファーストの会に魅力を感じることはなかった。
「自民党は物事をはっきりと決めて、前に進める力を持っている」
総理大臣という夢の第一歩として、都議会議員選挙に臨み、日本をよくする第一歩として、東京をよくすることを目指す。
注目選挙区のためか、総決起大会には菅義偉内閣官房長官も駆けつけ激励。「都民ファーストから出馬することもできたのに、区長選の結果が厳しいところであえての出馬。知事のところから出たらチェックできなくなることを中村さんはわかっている」(菅官房長官)
また内田氏も、「私は36歳で地方自治に参画した。中村さんは27歳で、しかも女性。その若さで政治に挑もうとしている。キラリと光る政治的資質がある」と、後継者にエールを送った。
その内田氏からのアドバイスは?
「政治のアドバイスはないです。ただ、“お辞儀はもっと深く”と言われているけれど、意識しないとできないことがある」
と中村候補。小池都政の評価は、
「情報を開示して問題を明るみにするまではいい。しかし、それ自体が目的になっている。情報公開は手段。開示された問題についてどういう方向でやっていくのか。決断して、進めていくのが都知事の仕事。今は停滞しています」(中村候補、以下同)
小池都知事が「都議会はブラックボックス」として議会改革を訴えていることは、「都議会は区議会ほど身近ではないが、条例を作るときはきちんと話し合っている。法的手続きは問題なくブラックボックスではない。求めれば誰でも情報開示される」「若さ」「女性」ということで注目されている。
「“若さ”はいいのだけど、“女性だから”というのはない。女性も、男性と一緒に働きたい人はたくさんいる。女性だから女性の声を組み入れやすいというのはある。だからといって女性政策ばかりではない。それが都民ファーストの会とは違うところ」
千代田区では、都民ファーストの会からは、新人で元警視総監の長男、樋口高顕氏(34)と無所属の須賀和夫氏(61)が出馬予定だ。各社の世論調査で安倍晋三内閣の支持率が急落するなか、都議選の結果次第では国政への影響も必須だ。
取材・文/渋井哲也…ジャーナリスト。『長野日報』を経てフリー。自殺、いじめ、教育問題など若者の生きづらさを中心に取材。近著に『命を救えなかった─釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(三一書房)がある
※執筆者の名前・プロフィールを訂正しました(2017年7月3日18時56分)