ゴミ屋敷孤独死などの根底にある問題ともいわれるセルフネグレクト。その事例を見ると、ごく普通の生活をしていた人が陥ることも多いよう。ただ、若者や中年層のセルフネグレクトと、背景が大きく異なるのが高齢者の問題。まずは一番身近な自分の親、そして自分自身の老後のためにも、正しく理解しておきたい。

突然、ゴミ屋敷になるわけではない

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決して望んだわけではない限界を超えた先の生活後退

「私はこうした状態を、高齢者の“生活後退”と呼んできました」と語るのは、高齢者の生活問題や社会孤立問題について長年研究してきた立命館大学特任教授・小川栄二先生。セルフネグレクト(自己放任)という言葉には、自ら望んでそうなっているニュアンスが含まれますが、高齢者の場合は、そこに至る背景が人によって違うのだとか。

「加齢による体力や生活意欲の衰えにより、家事全般が十分にこなせなくなり、家の中にゴミがたまり、生活の質が低下していきます。そんな状態に対して、実は高齢者自身もなんとかしなければいけないと思っているのですが、ある程度の状態を超えてしまうと、自分の力ではどうにもできなくなってしまうのです。そこで頼れる人がいればいいのですが、周囲との交流が薄く、孤立状態にあったり、また誰かいたとしても、「助けてほしい」と言えない場合が多い。なぜなら、誰だって汚れた家の中や自分が出したゴミを人に見られるのは嫌ですよね? 見られたくないから支援を拒否。その結果さらに部屋の中や生活状態が乱れていく……という悪循環に陥ってしまうんです」

 つまり、高齢者本人が声をあげることが少ないため、親族や周囲の人にも気づかれないまま、深刻な生活後退に陥っていることは予想以上に多いのが現実。認知症などの疾患がない場合でも、少しずつできないことが増えていくことで誰にでも陥る可能性があるのです。

衛生面、健康面、精神面すべてを脅かす荒廃した生活

 高齢者におけるセルフネグレクト=生活後退とは、具体的にどんな状態を示すのでしょう?

「人によって内容や程度の違いはありますが、身の回りのことを、やれなくなって生活が悪化している状態です。例えば家の中の掃除をしなくなり、古新聞や雑誌が雑然と積み上げられ、それが数十センチの高さにまでなる。さらに、食べ残しの食品などがそのまま放置され、ゴキブリやネズミ、ネコの死骸、排泄物などにまみれて暮らしていたケースを目にした経験もあります。また、清潔さへの関心も薄れ、洗濯していない服をずっと着続けていたり、失禁して汚れた下着もそのまま、入浴も長期間していない。食事に対しても無頓着になり、カップラーメンや菓子パンなど、健康とはほど遠い貧困なメニューばかりを食べ続けたり、食欲自体が低下している人も多く見られます」

 ニュースなどで見かける、家の外にまで物があふれだし近所から苦情がでるようなゴミ屋敷は、目につきやすく地域の迷惑問題と見られがちですが、これも高齢者が抱える生活後退の中の特に激しいケースといえます。

「ただ、外からもわかるようなケースというのはごく一部で一見、普通に暮らしているように見えて、ドアを開けてみると家の中がすごい状態になっていた、というケースのほうが圧倒的に多いですね」

 その実態を知るほどに、親や親戚、自分の身近な人がなってしまったら……。そんな不安を抱く人は多いはず。

「まず何より、そんな状態にならないための事前の対応が大切です。ゴミ屋敷ひとつとってもひと晩でそういう状態になることはありません。相当な期間を経ているはずなんです。ですから、高齢者本人が孤立しないよう、普段から関係を作っておくこと。たとえ離れて暮らしていても、せめてお盆とお正月ぐらいは親のところに顔を出すなど、できることはあるはずですから」

 ちなみに、6か月たつと人によっては結構ひどい状態になる場合もあるそうなので、交流の目安として肝に銘じておきたい。