正しい選択を妨げる“致命的なバグ”
正しいキャリア選択への道のりはまだ続きます。というのも、私たちの意思決定力は生まれつき深刻なバグを抱えており、そのせいでいかに企業の財務諸表を分析しようが、どれだけ自己分析を行おうが、正しくキャリアを選ぶことはできないからです。
その証拠に近年では、経営学の世界などでも「情報の分析をする際は必ず脳のバグを取り除け」といった考え方が普通になりつつあります。
一例として、世界的なコンサルティングファーム『マッキンゼー・アンド・カンパニー』が行った実験では、まず2207人のエグゼクティブ(経営幹部)から直近で行った1000件超の意思決定を集めたうえで、「他のサービスに投資すべきか?」や「新たな事業に進出すべきか?」といったビジネス上の決断がどのような成果をあげたかをチェックしました。その際に、エグゼクティブの意思決定スタイルを2つの側面から調べています。
◎物事を決める前にどのようなデータ分析を行ったか?
◎物事を決めるためのプロトコル(手順)は決めていたか?
当然ながら、大半のエグゼクティブは、意思決定の前に大量のデータ分析を行っていました。不確実性に対応すべく感度分析を行ったり、高度なファイナンシャルモデルを使ったりと、資本調達の可能性を綿密に数字で把握するスタイルが一般的だったそうです。
一方、意思決定のプロトコルをはっきりと決めていたエグゼクティブはほとんどいませんでした。例えば、第三者の意見を聞いたり、チームのなかから反対意見を募ったり、あえて最悪の状況を想定したりと、分析の内容をもとにどのような手順で決断を下すかを定めていたエグゼクティブは少数派だったのです。
その後、それぞれの意思決定がどれぐらいの利益に結びついたかを確かめたところ、次の事実が明らかになりました。
《 正しい意思決定を行うためには、綿密なデータ分析よりも脳のバグを取り除くプロトコルのほうが600%も重要である》
驚くべき数字ではないでしょうか? どんなに精密な分析を行っても、脳のバグに立ち向かうためのプロトコルを決めておかなければ、意思決定を間違えてしまう確率は上がるようです。研究チームは言います。
「決して『分析』そのものが無意味だと言いたいわけではない。今回の研究データをよく見れば、ちゃんとしたプロトコルを使った意思決定は、ほとんどが良質な分析に裏づけられていた。なぜなら、プロトコルによって脳のバグが取り除かれた結果、質の低い分析が排除されたからだ」
要するに、脳のバグをうまく取り除ければ、あなたが正しい決定を下せる確率は格段に上がります。その作業は決して楽ではないものの、データ分析より600%も重要だと言われればやるしかないでしょう。では、脳のバグの実態と排除の仕方について、詳しくご説明します。