風邪などのウイルスのほとんどは、鼻や口の粘膜から侵入することが知られている。ところが、口の中には、「タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)」という、細胞壁を分解してウイルスが気道粘膜から細胞に侵入しやすくする特性を持つ酵素が存在するというから驚き! 口腔内に歯周病などの病原菌があると、この酵素が増殖し、インフルエンザなどのウイルス感染の発症や重症化を招くおそれが!!
感染予防は唾液の量が決め手!
「口腔内には700種類以上の細菌がすみついているといわれ、これらの細菌のうち歯周病菌などの病原菌が、このプロテアーゼを増殖させることがわかっています。正しい口腔ケアで口腔内の細菌数を減らすことができ、プロテアーゼによるウイルス感染の助長を防ぐことにつながります」(栗原ヘルスケア研究所所長・栗原丈徳先生)
では、このプロテアーゼを抑える正しい口腔ケアとは?
「起床時と睡眠前の正しい歯磨き習慣にプラスして、唾液をしっかり分泌させることも重要」だと栗原先生。
「唾液には殺菌作用があるため、口腔内の細菌数は唾液の分泌量で大きく左右されますから、プロテアーゼの増殖抑制には欠かせません」
また、唾液とウイルス感染予防の関係はそれだけではない。唾液中に含まれる、IgA(免疫グロブリンA)という抗体は、さまざまな種類の病原体に幅広く反応して病気や感染症から身を守る、免疫物質の一種。唾液中のIgAの量が低下すると、呼吸器系の感染症にかかりやすい状態になることもわかっており、IgAが新型コロナウイルスの感染予防にも有用である可能性が示唆されている。
「IgAのほかにも、唾液中には抗ウイルス作用を持つタンパク質が多く含まれており、唾液は感染症予防のための重要な役割を果たしています。しかし、その分泌量が減少していることに気がついていない人も実は少なくありません」
特に中高年は要注意だと栗原先生は指摘。
「唾液腺細胞は加齢とともに萎縮し、そのほとんどは再生しません。誰でも加齢によって唾液の分泌は減少するからこそ、それを促す方法を身につけることが必要なんです」
唾液分泌を促す習慣として栗原先生が教えてくれたのが「唾液腺マッサージ」だ。耳下腺・顎下腺・舌下腺の3つの唾液腺を指でマッサージするだけの簡単な方法だけれど効果はてきめん。口の中が粘ついたり乾きを感じたときに行うのがおすすめ(詳しいやり方は下部をチェック)。
「また唾液の分泌には舌の筋力を鍛えることも有効。舌を思いきり前に出す×3回、前に出したまま左右に動かす×3回、前に出したまま唇に沿ってぐるりと1周回す×3回の『舌の筋トレ』を歯磨き後の習慣にすると筋力維持に役立ちますよ」
(構成/中村明子)
【唾液線マッサージの方法】
《耳下腺(じかせん)》……左右の耳の前、上の奥歯のあたりを前に向かって円を描くように10回マッサージ。
《顎下腺(がっかせん)》……左右の耳の下にあるあごの骨の内側からあご先まで場所をずらしながら5か所を5回ずつ刺激。
《舌下腺(ぜっかせん)》……あご先の内側、舌のつけ根のあたりを両手の親指で10回刺激。
【プロフィール】
栗原丈徳先生 ◎栗原ヘルスケア研究所所長。歯科医師。「予防歯科医療」や「食と健康」などをテーマに幅広く活動。共著に『病気知らずの食べ方みがき方』(日東書院)ほか多数。