東大卒の夫はプライドが高いだけ

 奈美さんは「同じこと(転職)を起こさない」という夫の言葉を信じて今まで結婚生活を続けてきたのですが……残念ながら、夫は大して反省していなかったのでしょう。一度あることは二度ある。夫は恩を仇で返してきたのです。

「最初の転職でどれだけ大変だったか……私が出費を削れるだけ削ることで何とか家計を回したんです。それなのに主人が『また』会社を辞めてきたときは気が狂いそうでした。また主人の尻ぬぐいで家族を振り回すのかって!」

 3年前の2回目の転職で夫の年収は900万円に。結婚当初と比べると半減した格好です。東京大学卒業の夫は輝かしい履歴書の力で大手企業に採用されるのですが、蓋を開けてみると高いのはプライドだけ。最高学府出身にふさわしい結果を残せず、次第に居場所を失い、最後には「周りはバカばっかりだ! 話にならないよ!!」と捨て台詞を吐く。そして退職願いを突き出すのですが、お払い箱になった現実を直視しようとせず、何度も同じ失敗を繰り返したのでしょう。外資系コンサルティングファーム、国内銀行、そして国内信販会社という職歴はキャリアアップではなく「ダウン」と言えますが、奈美さんのせいではありません。

 奈美さんは高学歴、高収入の夫を手に入れ、順風満帆な人生が待っているはずでした。年収が上がることはあっても下がることはないと。しかし、夫は年々、成り下がり続け、今ではうだつの上がらない平凡な男。「こんなはずじゃなかった!」と忸怩(じくじ)たる気持ちがくすぶり続ける日々でしたが、夫の前では隠し続けてきました。

 例えば、結婚当初の夫の勤務先は過酷で、終電で帰宅するのは当たり前。奈美さんは温かい食事と風呂を用意するため、どんなに遅くとも起きていたのですが、夫の反応は感謝ではなく激怒。「余計なお世話だ。お前が待っていると思うと仕事に集中できないじゃないか!」と吐き捨てたのですが、夫の自己中な性格は長男(現在16歳)が産まれても変わらず。仕事の鬱憤を家庭で晴らすかのように夫の八つ当たりは日増しにエスカレート。

 夫が家庭に見向きもせず、家事や育児を一手に背負う奈美さんに向かって「俺は頼んだ覚えはない。家のことはお前が勝手にやってるんだろ!」と逆上。さらに「お前の気が強すぎるから、今まで何もできなかったんだ!」と攻撃するありさま。それでも「稼ぎを半分に減らしておきながら何様なの?」と言いたいのをぐっと堪えたそうです。

年収の半減で住宅ローンの支払いが危機に

 年収の半減によって危機に陥ったのは住宅ローンの返済です。夫婦の自宅は結婚7年目、最初の転職をする2年前に8000万円で購入した文京区の高級住宅街の物件。当時の手取り額は月82万円だったので、月25万円の住宅ローンの返済は余裕でした。

 しかし、現在の手取り額(月46万円)では住宅ローンを返済し、生活費(11万円)、夫の小遣い(10万円)に充当すると手元には何も残りません。それ以外の保険料(2万円)や携帯代(2万円)、自動車維持費(2万円)、固定資産税(4万円)の分だけ赤字の状態。賞与(60万円×2回)で補填するというぎりぎりの生活。

 そのため、奈美さんは「もう限界です。(自宅を)売りに出してほしい。今の会社に勤めて家を維持するのは無理だとわかってください」と訴えたのです。奈美さんが不動産屋に無料査定を頼んだところ、売却予定価格は6600万円。住宅ローン(5900万円)や諸費用(200万円程度)を差し引いても500万円の利益が出る計算です。しかし、プライドだけ高い夫は耳を貸そうとしません。「バカにするな! 今さらほかのところに住めるかよ。俺の人生を否定する気か?」と激しく抵抗。奈美さんが「なんで?」と尋ねても「どうしてもだ!」の一点張り。夫は家計の苦しさに見向きもしなかったのです。

 もし、夫が少しでも悪いと思っていたのなら、今年のシルバーウィークは静かにし、出費を増やさず、小遣いの一部を自主返納したはず。しかし、夫は9月の4連休に性懲りもなく旅行に出かけたのです。結局、夫は1回目の転職から何も変わっていないのでしょう。