買えないのなら増やす苦肉の策で乗り切る!?

 悲しいことに、世界と比べて資金力で負けている日本。新しい動物を手に入れるために“背に腹は代えられない”と、ある方法がとられているという。

動物園同士が“互助会”みたいになって、“ウチで生まれた子どもをそちらの園に”というブリーディングローンという方式をとっています」

 例えば、3年計画で繁殖させることを条件に動物の個体を違う動物園から借りてきて、生まれた第1子をそこの施設で引き取る。第2子を借りてきた動物園に譲渡する、というやりとりをするという。

 上野動物園でも'20年にはレッサーパンダを山口県周南市徳山動物園から借受し、別の個体を長野市茶臼山動物園と交換している。しかし、公開されている資料には「借受」のほかに「預かり」という文字も。このふたつ、一体何が違うのか?

「借受は期間を区切って戻すという約束があります。預かりは、“余剰個体”といって、増えてしまって飼育できるキャパを超えてしまったので、そちらでお願いできませんか? という扱いですね」

 動物からしてみれば迷惑な話だが、あの人気動物が余剰個体のおかげで安く売買されているのだ。それは─、

「ライオンです。輸入で購入するとなると1頭で250万円くらいしますが、日本で繁殖した個体であれば、50万円前後で手に入ります」

 動物園でも人気の動物なのに、そんなに安値とはかなり意外だ。

「よく子ライオンを抱いて記念撮影とかやっていますよね。その場で必要となる子ライオンの需要があるわけです。そういった要因もあり、繁殖させていくと個体としてどんどん増えていきます。なので安く流通できるんです。

 言ってしまうと動物の値段は“言い値”なんです。欲しいと思って探していると高くなります。でも、待っていると、余剰になった個体が出てきて“タダでもいいよ”となる場合もある」

変わりゆく時代の中で考えるこれからの動物園

 動物園の目的のひとつとして、種の保護や保全というものがある。増えすぎた個体を“余剰”と呼ぶことに、違和感を覚える人もいるだろう。特に最近では、動物愛護の立場から、動物を展示している動物園は虐待じゃないのか、という声も上がっている。

「そういった批判的な声は確かにあります。でも僕は、動物園は必要なものだと思っています。ネットやテレビ、本などで動物の姿を知ることはできても、本当の姿は見えません。

 あと、自然の中で保護や保全をといっても人間が開発していく中で、動物のすむ環境がなくなってきているんです」

 密猟で数を減らしたり、自然開発で追いやられる動物は時おり報じられる。

「例えば、かつてトラが10万頭いたのに今は1万頭になってしまいましたと。なので保護をして保全して増やしたとします。でも、どこにそのトラを放すのですか? もといた場所に人間が住んでいたら、立ち退きしてもらうんですか?

 そういう状況を知ってもらうためにも、動物園は必要だと思います。ゾウを見て“こんなに大きな生き物がいなくなってしまう世界は異常”と思い、そんな世界をどうにかしようと考えるきっかけになればいいですし。

 ただ、動物園が乱立したのは事実で、いろいろな動物がまんべんなくいる動物園は、それほど多くは必要ないと思います。

 ゾウならゾウ、ライオンならライオンに特化した施設のほうが、保全や保護といった部分で動物のためになるのではないでしょうか。“なんでもいる”という施設は、上野動物園さんに頑張ってもらいたいですね(笑)」

<取材・文/蒔田 稔>