1日約4万人にのぼる食のプロたちが厳しい目を光らせ、食材の売り買いを行う築地市場。ここは古きよき時代の伝統を引き継ぎながら、約80年間、日本の食文化の一大拠点であり続けた。しかし、今年11月の豊洲移転に伴い、間もなく閉鎖されることになる。
平野文さんはアニメ『うる星やつら』のラム役の声優として知られるほか、DJ、ナレーター、エッセイストとしても活躍。小学館から発行された『築地魚河岸嫁ヨメ日記』は電子書籍も発売中。旦那様は漫画『築地魚河岸三代目』の料理協力でも知られる小川貢一氏。
「豊洲移転? 決まったものはしょうがない。江戸っ子ってあっさりしているの!」
旦那様は築地の元仲卸三代目。現在は築地にて、魚料理店『魚河岸三代目 千秋』の親方を務めている。なれそめも興味深い。
「仕事で築地に通うようになって、ここに嫁ぎたい! と思い立って、お見合いを頼んだの。当時はファックスも携帯もなくて、経験と度胸だけが頼りの時代。生の魚を扱うから動きもテキパキ。
暗いうちから働いて、眠っている空気を目覚めさせる。お天道様に逆らわない生活をしている築地の人がとてもカッコよく見えたんです。いい人に出会えて幸せ」
女は男に尽くすべし、という考えの平野さんだったが「キミの仕事は夜遅いだろ? 結婚したら朝起きなくていいから」と、働く女性として受け入れられた。
「築地は共働きだけど男社会。帳場や家庭を守る女あっての商売と心得ているから、男は女にやさしいの」
そんな夫婦のあり方を平野さんは“近代的封建制度”と呼ぶ。男は威張るだけでなく女をしっかり守る。
「築地って色物、芸能界、梨園など、いろんな業界の文化が集積したような世界。別世界から来た私みたいな者でもありがたいことに受け入れていただけた。“来るならどうぞ、ダメならあっさりさようなら”と、潔いのもいいですね」