「早起きがよいとされていますが、実は早朝は、1日のうちでもさまざまな病気が起こりやすい“ブラックタイム”だと知ってほしい」
37年間、臨床医として患者と向き合ってきた経験から、そう力説する石黒源之先生。急性心筋梗塞や脳梗塞など、いわゆる“血が詰まる病気”は、朝の発生率が高いので、特に注意が必要だという。
「就寝中は体内の血液から腎臓で尿が生産されるので、血管は脱水ぎみ。早朝は、血がもっともドロドロ状態になっています。そこへ、午前4時ごろから起床に向けた身体の準備がスタート。交感神経が働き始め、血管が収縮し、脈拍数が増加します。結果、収縮した血管に、粘度の高い血が流れ、血栓ができやすくなってしまう。午前5時~8時は、急性心筋梗塞や脳梗塞、狭心症の発生数が多い危険な時間帯といえます」(石黒源之先生、以下同)
6時より早い起床は身体に負荷が大きすぎる
30代~60代前半に推奨する起床時間は8時、6時より早い起床は身体に負荷が大きすぎるという研究報告もある。
「大学生なら10時から勉強を始めたほうが効率的だともいわれています。朝は命にかかわる病気が起きやすい時間帯ですから、必要がないのに命を削って早起きをしなくてよいとは思いますが、6時前がダメと言われても、現実的に難しい人も多いでしょう。ですから、朝は危険と認識し、うまく乗り切る方法を知っておく必要があるのです」
心筋梗塞や脳梗塞対策としては、就寝前にコップ1杯の水を飲むこと。目覚めたらすぐに立ち上がらず、布団の中で10~20分過ごし、リラックスした状態で起きた後、水分補給をするのが効果的だ。
「花粉症などのアレルギーは、寝ている間に“アレルギー発症スイッチ”が押され、起床時に症状が始まってしまうので、寝る前に薬を飲むのがおすすめ。40~50代の女性に多い、朝の片頭痛の痛み止めも同じです。多くの病気は“日内リズム”(ホルモン分泌などの生命活動が約24時間の周期で変動する生理現象。体内時計とも)と関連して、それぞれ“起こりやすい時間帯”があります。40代以降は、日内リズムの影響を受けやすくなるため、天気予報のように、朝の病気の危険や不調に対して“健康予報”を行い、身体のブラックタイムに備えることが大切です」
今、石黒先生がもっとも懸念しているのは、コロナ禍明けのブラックタイムだという。
「自殺件数は、早朝5~6時、とりわけ月曜の朝が多い。つまり、休暇明けはメンタルコントロールが非常に難しいのです」
休業や休校、在宅ワークなどからいつもの日常に戻るとき、家族が不安を抱え込まないよう、普段以上の声の掛け合いが求められている。
■早朝に発生・悪化しやすい病気
心臓病(急性心筋梗塞、異型狭心症)
脳梗塞
不整脈
高血圧
うつ病
アレルギー症状
石黒源之先生/石黒クリニック院長。時間による疾病の発生率の差に着目した予防医療を提唱する。著書に『「正しい時間の使い方」が、あなたの健康をすべて左右する』(東洋経済新報社)など