『TOKYO MER』に出演中の左から賀来賢人、鈴木亮平、中条あやみ

 平均視聴率は常に2ケタをキープし、今クールの人気NO.1ドラマとなった日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)。

 都知事が新設した救命救急のプロフェッショナルチームが、重大事故や災害の現場に駆けつけ、人々の命を救うというストーリーだ。

医師から見たMERの“すごいところ”

「鈴木亮平さんが演じるチームリーダーの医師と、賀来賢人さんが演じる厚労省の官僚でもある医師を中心に、研修医役の中条あやみさん、さらに看護師と麻酔科医、臨床工学技士というチームです。

“死者を1人も出さない”という使命の下、危険な現場に挑んできました。事故や災害の現場は、大迫力で描かれており、緊張感が伝わってきます」(テレビ誌ライター)

 毎話、鈴木の“スーパー医師っぷり”に感嘆してしまうが、現役の救急医に聞いてみるとツッコミどころもあるみたい。

 まず、このドラマの大前提でもある“死者を1人も出さない”ということ。第1話の冒頭で、都知事がこの使命をチームに課した際、メンバーも驚きの表情を見せていたけど……。

 福岡徳洲会病院救急科の医師・川原加苗さんは、

「医師としては、そういう気持ちはもちろん持っていますが、言葉にすると後から疑問や反感を買いやすくなるので、言い切ることはできません」

 と、話す。一方、医学博士であり、救急専門医の宮田和明さんは、ドクターカーとは違う、手術室や最新の医療機器が搭載された車“MER”で現場に向かうというチームだからこそ、この使命はありえるという。

「『MER』がドクターカーよりもすごいのは、臨床工学技士と麻酔科医が同乗していること。それによって、災害現場で全身麻酔による緊急手術や、人工心肺や緊急透析なども可能となります。したがって、“死者をゼロにする”という目標を掲げることに関しては理にかなっていると思います」

 とはいえ、目標のためにレスキュー隊と対立してまで危険な場所に立ち入るのは、さすがに……。2人の医師も通常の災害現場ではありえないと語る。

「災害現場で働く医師は、必ず二次災害が起こらないように、現場や周囲の安全確認を行ってから、各種の処置や治療を開始します。例えば、高速道路での多重事故などでは、周囲を確認せず、その場で処置をしてしまうと後続車両に巻き込まれてしまって、より多くの犠牲者を出しかねない」(宮田医師)

リアルでも「心停止は珍しくない」

 ドラマに詳しいテレビ解説者の木村隆志さんは、こういった対立の演出は“日曜劇場あるある”だという。

「日曜劇場は『半沢直樹』などのように、わかりやすい“悪”が出てきて、対立で煽り、それをベースに展開するストーリーが多い枠です。今回は医療従事者にエールを送る意味があるので”悪人”はほとんどいませんが、救命だけでなく対立も描くことで、濃厚な人間ドラマでも視聴者を引きつけたいんでしょう」

TBS系で放送中の『TOKYO MER』(番組公式HPより)

 対立の演出で印象的なのは、レスキューにもチームの医師にも反対されながら行う、救出と同時進行の手術。

 前出の宮田医師は、

「周囲の安全確認が十分に行われた状況であれば、通常では考えられない場合でも救命のため、その場で緊急手術を行うこともあります」

 と話すが、川原医師は、

「ありえないです。安全な場所に移動させてから、手術というよりは“今この方の命を救うために必要な処置”をすることはありますが、一般的にイメージするような手術は難しいと思います」

 と、状況により難しい判断になるのか、同じ救急医でも意見が割れた。

 では、物語の佳境に必ずある、心停止のシーンはどうか。そもそも、心停止はこんなに発生するの?

「病院に搬送されてくる一般的な心停止の方は、私が勤務している病院でも夜勤をしているとだいたい1日に1人は運ばれて来ます。なので、災害の現場で心停止の方がいるのは珍しいことではないでしょう」(川原医師)

 心停止で行われるのが心臓マッサージ。『MER』では医師や看護師が必死に名前を呼びかけるのが印象的だが、実際の災害現場では少し違うという。

無茶な設定が人の心をスカッとさせる

「名前を知らない患者さんが多く、呼びかけることはほとんどありません」(川原医師)

 心臓マッサージは演出の要素が強いが、ひとりひとりの患者の設定は、リアルにつくられているそう。

「第2話で、足が鉄骨に挟まれた患者さんが、救出直後は意識が普通だったのに、その後、心肺停止になったシーンがあったんです。それはリアルだと思いました。長時間挟まれていると筋肉がやられてしまい、その影響で電解質の問題が起こって、高カリウム血症からこういった事態になってしまいます」(川原医師)

『TOKYO MER』で共演中の菜々緒と石田ゆり子

さらに宮田医師も、第5話で賀来賢人が、患者に点滴されていた硫酸マグネシウムで妊娠高血圧症候群であることに気づくという設定には、感心したと話す。

 ドラマで最も印象的なのは、出動した現場が終わった後の「死者は……、ゼロです!」の決めゼリフ。

「実際の現場だと、強調して死者の数を言うことはなく、安全面や感染対策で問題がなかったか、処置の優先順位をつける、トリアージは適切に行われたかを中心に確認します」(宮田医師)

 川原医師も口をそろえる。

「そもそも最終的な人数の確認をするのは、医師ではなく、消防です。ドラマのように、人数を読み上げてみんなで歓声を上げるというのは、見たことがないですね」

 やはり、『MER』でおなじみのシーンには、フィクションの要素がかなりありそう。

 これについて、前出の木村さんはこう分析する。

「『MER』は“死者はゼロ”ということが前提になっています。“きっとこの先生が救ってくれる”という時代劇のヒーロー的な前提で見ていくドラマで、リアリティーよりエンタメ性を重視しています。こんな先生やこんな車があったらいいな、というファンタジー。

 大惨事が起きている現場だから緊急で行くのに死者がゼロというのは、普通に考えたらむちゃです。でも、そのくらいのほうが痛快で見やすい。コロナ禍で心が沈みがちなので、心がスカッとするほうが、リアリティーがありすぎるよりも、ちょうどいいのではないでしょうか

 災害現場の患者だけでなく、視聴者の心までも救う『MER』。もう終盤なのが名残惜しい!