マイホームパパ、銀行員、象やカワウソetc……演じることができない役はないというくらい、さまざまなキャラを演じてきた古田新太。演技に対する考え方、自身が語った“60歳定年”の真相など人気俳優のウラ側に迫ります!
古田流・子役との向き合い方
「もともと『デトロイト・メタル・シティ』が大好きで、この原作も知っていました。だけど漫画の内容が内容なだけに、どこまで再現するのかなと……」
ニヤリと笑いながら、こう話すのは、古田新太(56)。映画でもヒットした『デトロイト・メタル・シティ』で知られる、若杉公徳の人気漫画を実写化した映画『KAPPEI カッペイ』で古田は、伊藤英明演じる主人公・勝平らを指導する師範役で出演している。
山本耕史、小澤征悦、大貫勇輔ら個性派スターが作品をにぎわせている中でも異彩を放っている彼。現場でのウラ話から、自身が考える役者像まで語ってもらいました!
「大人キャストは古い知り合いばかりだから楽しみにしていたけれど、残念ながら現場では彼らとほとんど会えずじまいでした」
師範の出番は少年たちの特訓シーンが中心で、撮影は大半が子役相手のスタジオ収録。現場ではさぞ子どもたちに懐かれたと思いきや─。
「おいらは子役が苦手で……」
と歯切れが悪い。
「話が通じないじゃないですか。ちょっと優しくすると大人はみんな子どもが好きなんだと思って調子に乗る。だから距離を取ります。現場ではほぼしゃべらないですね(笑)」
とは言うものの、撮影時は子役たちに助言を与えるなど、映画同様、よき師範の一面も。
「子どもに役の気持ちがどうこう言っても通じない。だから彼らにはテクニック的なことだけ伝えます。例えば間の取り方にしてもそう。
こっちのセリフが終わった途端すぐしゃべろうとするから、“そうじゃない、セリフを言う前にまず一度大きく息を吸いなさい”と教えます。その結果、自然と師範の前で緊張している演技になるんです。そこまでいちいち子どもに説明はしないけど、勉強にはなっているんじゃないですか。実際喜ばれますよ、いい子役にはね(笑)」
出る限りは絶対に面白くしたい
シリアスからコメディーまで出演作のジャンルは広く、軽妙な演技で存在感を大いに放つ。自身が魅力を感じる役は?と聞いてみると、
「そういうのはもうないです。若いころはイキがって“殺人犯とか悪役しかやりたくねぇよ”なんてほざいてたこともあリましたけど“こういう役をやりたい”と言ってる限り偏っちゃう。
30歳を過ぎたころから“何でもやりますよ”というスタンスになって、そうしたら思いもかけなかったような役がくるようになりました。そのほうが面白いですね。マイホームパパ役なんてのも結構楽しかったりするし(笑)」
マイホームパパに銀行員、女装家の教師、果ては象やカワウソ(!)まで、これまで演じてきた役は実に幅広い。その演技論は、独特のものだ。
「どんな役も演じるうえではあまり変わらないです。だいたい象がどんな気持ちでしゃべっているかなんてわからないから、役作りなんてものはない。結局のところ象やカワウソも擬人化しているわけだから、そいつの中できちんと理屈が通っていればいい。重要なのはどこに納得するかということ」
作品を選ぶ基準は「スケジュールが合うかどうか」で、どんな役もイヤとは言わず、オファーがあれば引き受けるという。役者としてのキャパがなければ到底なしえないスタンスだ。
「ただ出る限りは絶対に面白くしたいという気持ちがあるから、どんな台本でも面白くする努力はします。大切にしているのは、監督や相手役とのコミュニケーション。それはおいらがもともと舞台出身だからというのもあります。
舞台の場合は何か月かの稽古の中で、相手役がこうきたから自分はこういこうと芝居を作っていく作業になる。でも映像は、撮影開始の段階で台本が最後までできていないこともあるわけです。初めは戸惑いました(笑)」
無類の酒好きでも知られ、飲酒は毎日欠かさずに仕事が終われば即晩酌タイム。
「早く終わって早くお酒が飲みたいから、現場では監督の言うことをひたすら聞きます。監督は自身の思い描く作品を作ろうとしているわけで、それにみんながきちんと倣えば早く終わるはずだから(笑)」
しかし今のご時世は自粛続きで、酒飲みにとってはかなりつらいものがあるのでは?
「最近はもっぱら家で、ニュースを見ながら飲んでます。おいらは飲めさえすればどこでもいい。会食だとか仲間と飲みに行くのも全然興味がないから何も困らないんです。飲みに行っていたときもカウンターにひとりで座って飲んでるだけ。そうすると近くのテーブルで飲んでいる人たちが話す、いろいろな情報が耳に入ってくるわけです」
そこでの時間は役者として大切な糧にもなるという。
「役者仲間やスタッフと飲みに行くとどうしても作品の話になるじゃないですか。それより“社長の考え方が本当に腹立つんだよ”なんて話を聞いてるほうが面白い。役者は普段台本を読んで役の気持ちを想像しているだけで、実際のところはわからない。こういうことを考えているんだなとか、いい取材になります」
定年後も枯れた演技はしたくない
役者としての原点は、中学時代に映画館で見た『ロッキー・ホラー・ショー』。あれから数十年の時を経て、今では自身の代表作のひとつとして知られるように。今春には5年ぶりに主役のフランク・フルターを演じ、話題を集めた。ここでも座長として面倒見のよさを発揮している。
「コメディーだからセリフのどこがお客さんに届けば笑いがくるかという計算が必要になってくるんです。ただキャストの中にはこういう芝居に慣れていない人も多いから、普通にセリフをしゃべってもダメなんだと教えてあげる。
例えばツッコミの場合は出だしを強く発しなさいと。“どんだけ!”なら“D”を強調しろと教えるんです。彼らもそれで“ウケました!”なんて喜んでいて、われながらいい先輩だと思います(笑)」
黒ガーター&ストッキングの妖艶な姿で圧倒的なカリスマ性を見せつけてきたフランク・フルターだが、演じるのはこれがラストだという。
「最終的には日本版『ロッキー・ホラー・ショー』みたいなミュージカルをやってみたいという気持ちがあって。ロッキーやジャネットではなく、カズオやヤヨイが出てくるような(笑)。
それでいてスピーディーで、カッコいい音楽があって、意味はわからないけど楽しかったと思えるような作品ができたらなと。そういうミュージカルがつくりたくてずっと劇団☆新感線にいますが、なかなか実現には至りませんね。だからといって『ロッキー・ホラー・ショー』をやっていたら本末転倒なんだけど(笑)」
かねてから「60歳で役者定年」を公言してきた。現在56歳で、残すところあと4年。定年延長が望まれるが……。
「劇団☆新感線の舞台は体力勝負。3時間超えは当たり前で、しかも落ち着いたシーンが一切ない。コメディーのセリフは出だしが大切で、どんどん上からかぶせていくからどんどんスピードが速くなる。
その分体力が消耗していくわけです。あれだけのナンバーを歌って踊ってズッコケてツッコんで、というのはもういいかげんキツいですよ。メインでガツガツやる役は、そろそろフェードアウトしていけたらと。そうなると、せいぜい60歳までかなと思っていて……」
では古田が描く“定年後”にはどんな役に取り組むのか?
「セカンドとかサードの役、お爺さん役ならイケるかななんて考えてもみるけれど。でも枯れた演技はしたくない。渋いお爺さんというのも喜劇人としてはアリだけど、できれば伊東四朗さんみたいになりたくて。
伊東さんはいまだに楽屋に来て“僕にも仕事ちょうだいよ”なんて普通にふざけますから。ああいうチャーミングな先輩になりたい。いつまでも“ニン!”なんてやっていたいですよね(笑)」
“バンドTシャツ”、持っている枚数は200枚
しかし現在も映画にドラマ、舞台と引っ張りだこ。その振り切った演技はまず映画『KAPPEI カッペイ』で。自身の見どころを聞くと……。
「おいらの出番はすべてくだらないシーンばかり。子どもたちを特訓しながら、キャバクラに行ったりしますから(笑)。小澤君いわく、師範は短いながら回想シーンに、やたらちょくちょく出てきてそれが腹が立つんだと。みなさんもぜひ劇場で大いに腹を立ててほしいですね(笑)」
●古田といえば“バンドTシャツ”
取材日も着ていたのはアメリカのバンド『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』のTシャツ。最近整理したというが、「持っている枚数は200枚くらいかな。奥さんからは“着ないものは捨てなさい”って言われるけど、全部着るんだから!」
《取材・文/小野寺悦子》