NHK朝ドラに出演歴のあるお笑い芸人たち。左からクロちゃん、明石家さんま、志村けんさん、津田篤宏

 NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』も今週で18週を迎え佳境に近づいている。
福原遥演じる岩倉舞が、お父ちゃん(高橋克典)のネジ工場を継ぎ、これでもかというほどピンチが降りかかる中、隣でお好み焼き店を営む梅津夫婦(山口智充・くわばたりえ)が登場するシーンは明るく視聴者に癒しを与えていると好評だ。

 その雰囲気作り、演技力は芸人ならでは? 今では1朝ドラ3芸人といえるほどに出演している。ここ10年間を振り返り、テレビウォッチャーの2人が朝ドラ出演歴のある芸人を語り尽くす。

芸人起用の利点

「古くは昭和40年代から芸人は出演していて、その後も喜劇役者で元てんぷくトリオの伊東四朗さんや声帯模写の三代目江戸家猫八さん、いかりや長介さんなど、たくさんの方が出演していました。みなさんお笑い芸人というよりも喜劇役者としての側面、芸人から俳優に転身した方などがほとんど。また大阪局制作の朝ドラには芸人がよく出演していますが、おそらく関西弁話者としての起用もあると思います」

 とは、朝ドラに詳しいライターの成田全さん。古くから芸人の起用はあったものの、大幅に増えたのは'90年代からだという。

「ナインティナインなどのお笑い第4世代が台頭してきたころからではないでしょうか。1998年放送の『天うらら』には林家こぶ平さん(現・九代目林家正蔵)、オアシズの光浦靖子さん、猿岩石時代の有吉弘行さんと森脇和成さん、グレートチキンパワーズの北原雅樹さんなどが出ていました。

 また芸人が出演することで芸能ニュースにもなるし、バラエティー番組に慣れているので、番宣のための番組出演もスムーズで番宣番組を作る際にも重宝される。1月に放送された『舞いあがれ!』お正月スペシャルでは、福原遥さん、長濱ねるさん、浅田芭路さんをゲストに、山口智充さんとくわばたりえさんが『うめづ』に招く設定で進行していましたから、担当アナウンサーの必要がないという利点もあります(笑)

 印象に残った芸人を聞いたところ、前出の成田さんとドラマウォッチャーの神無月ららさんは、共にほっしゃん。こと星田英利の名前を挙げる。

「『カーネーション』で尾野真千子さんが演じる主人公の糸子と事あるごとに衝突するも仲良くなり、ビジネスパートナーとなるほっしゃん。さんが印象に残りましたね。彼は『おちょやん』の喜劇役者役もよかったです」(成田さん)

笑福亭鶴瓶のルックスは100点だった

「ケンカ寸前?と思わせるほど、遠慮のない糸子との丁々発止の掛け合いが“さすが関西のお笑い芸人”とも“え?ほっしゃん。ってこんなに演技うまいんだ?”と思わせる、新鮮な驚きに満ちていました。ほっしゃん。のキャリアを芸人から役者業に転換させる、決定的な一作になったと思います」(神無月さん)

 逆に芸人ということで悪目立ちしてしまう場合もある。

「1985年放送の『澪つくし』にラッパの弥太郎役で出演していた明石家さんまさんですかね。関西から流れてきた職人で、お調子者で、ケンカしたりスケベだったりと物語をかき回す役だったのですが、最後は女を追いかけてフェードアウトするという尻切れトンボな描かれ方だったので、ちょっと悪目立ちしてしまったかも。でもこの翌年『男女7人夏物語』に主演して高評価を得ているので、演技を学ぶいいステップアップになったのかもしれませんね」(成田さん)

お好み焼き屋「うめづ」の夫妻である山口智充(右)とくわばたりえが癒しに。この2人の息子・貴司くん(赤楚衛二)がドラマ最大の癒し!?

 神無月さんは笑福亭鶴瓶の名前を挙げる。

「山口智子さんがヒロインとして出演した1988年の『純ちゃんの応援歌』にて、主人公・純子を慕う疎開先のお坊ちゃま、正太夫役で出演していました。ヒロインにずっと恋し続けるも報われない。そしてお互いに結婚してからは友情でずっと結ばれる正太夫は、だらしなくて不器用だけど憎めない。

 その“憎めなさ”を体現したような鶴瓶さんのルックスは100点でしたが、演技力が少々追いつかない印象でした。正太夫の叔父役で、同じく噺家の桂枝雀さんが名演だったのも、当時の鶴瓶さんの演技の未熟さを際立たせてしまったかもしれません

東京制作の朝ドラに必要な芸人

「なんといっても忘れられないのは『エール』が遺作になった、小山田耕三役を演じた志村けんさんですね。なかなか映画やドラマに出ない志村さんが笑いを封印して出るのかと思って楽しみにしていたら、放送が始まる前に新型コロナで亡くなられ、初めて登場する回では追悼テロップが流れました。なので、収録済みのシーンが流れるたびに“ああ、もう亡くなってしまっているんだよな……”とショックで。最終回間近には偶然撮れていた映像を使って再登場しました」(成田さん)

 朝ドラに欠かせなくなった芸人たち。なぜ彼らは求められるのか。神無月さんは、制作局の違いを挙げる。

「大阪局で制作する場合は一に芸人役としてキャスティングしたい。二に関西の市井の人々、面白い関西人として登場させたい。という理由があると思います。前者の場合は餅は餅屋。後者の場合は、関西弁で軽妙な間合いの演技をしてほしい。実際『わろてんか』や『おちょやん』などは芸人たちのドラマでもあるので、新喜劇メンバーや、芸人の起用は必然だったと思います」

『おちょやん』に出演した星田英利と『エール』に出演した岡部大

 続けて、

「東京制作の場合は芸人というよりも、その役に近いパブリックイメージの役者さんを選んだら、たまたま芸人さんだった、というパターンかも。『ちむどんどん』などの片岡鶴太郎さんや『おしん』などの伊東四朗さんは、何作も東京制作の朝ドラに出演していて御用達俳優の趣きです。

 大ヒット朝ドラ『あまちゃん』に漁協の組合長役で出演したでんでんさんは、'91年の『君の名は』、'92年の『ひらり』、'03年の『てるてる家族』、'07年の『どんど晴れ』、'21年の『おかえりモネ』と、東京局、大阪局の両方に出まくっている売れっ子俳優ですが、元はお笑い芸人。東京局は芸人役者というよりも、“芸人の匂いのかすかに残った役者”が欲しいのかもしれませんね

 

 

お笑い芸人が出演したことのあるNHK朝ドラ作品たち

 

クロちゃんと恋人のリチを直撃。ふたりの手はしっかりと繋がれていて

 

記者にも神対応で知られる明石家さんま