「あのころは、一日3食食べるのは夢のまた夢。アメちゃん舐めて空腹をごまかして、50円玉1個握りしめて、スーパーのもやし売り場に直行なんて日もしょっちゅうでした(笑)」
と、壮絶な同棲時代を笑いながら振り返ってくれたのは、「ボヨヨ~ン」のギャグで知られる夫婦漫才コンビ「かつみ・さゆり」のさゆりさん(53)。いつも明るく、ラブラブな姿が微笑ましい2人だが、夫のかつみさん(60)は、結婚前から株取引で大損し、1億7000万円もの借金を抱える“借金王”。さゆりさんは当時20歳で、そんな彼との同棲生活のスタートは想定外のものだったという。
「まだコンビを組む前だったのですが、昼は芸人の仕事、夜はバイトで忙しかったかつみさんに代わって、私が銀行に行ったり、毎日たくさんかかってくる督促電話を受けたり。そうしてるうちに家に帰れなくなってしまい、気づいたときには一緒に暮らしてました」(さゆりさん、以下同)
莫大な借金あっても愛ある温かい食卓を
毎月の給料日は決戦の日。銀行が開いた瞬間に駆け込み、口座から現金をおろさないと、すぐに各所から引き落とされ、手元に残らなくなってしまうためだ。食費に使える額はわずかだったが、さゆりさんはめげなかった。
「かつみさんは、子どものころからお母様が忙しく働いていたから、家族で楽しく食べるごはんを知らないで育った人やった。だから、愛情たっぷりの温かい食卓を知ってほしくて。貧しくても少しでも明るい気持ちになれるごはんを作りたかったんです」
極貧生活を支えた“0円レシピ”
思わぬ形で始まった、過酷な同棲、そして新婚生活。彼を支えたいという思いはあったものの、当時のさゆりさんに、料理の知識があったわけではなかった。今とは違いネットでレシピ検索はできないし、料理本を買うお金もない。頼りにしたのは、明治生まれの曽祖母、大正生まれの祖母、昭和生まれの母の存在だった。
「私は3世代の女性に囲まれて育ったんです。実家にいたときには、よく料理などのお手伝いをしてました。そのときのことを思い出して、最初は見よう見まねでやってみたんです」
特に印象に残っていたのが、祖母が作った山菜料理。材料となる山菜は、家族総出で山に採りに行っていたという。
「私はその中でも、イタドリのおひたしが大好きで、食卓に出るといつも大喜びしてましたね」
こういった経験が、“0円レシピ”のヒントとなっている。
0円レシピの材料は、ファンから差し入れされたスナック菓子『じゃがりこ』や、スーパーの店員さんからもらった大根の切れ端など。そのほか、もやしなど、できるだけ少ないお金で手に入れた食材を、とことんムダなく使うのがコツ。お金をかけなくても、調理次第で、すごくおいしいおかずになる。
「とにかくカサ増しが大事やったんで。全然、捨てるという発想がないんです。
大根だって、皮も、葉も、しぼり汁一滴だってムダにしません。むしろ、そういうところにこそ栄養が含まれてるし、案外おいしかったりも。大根って、捨てられてしまう葉っぱがついた付け根の部分がいちばんおいしいんですよ。
まあ、私の場合、必要に迫られてやってたことなんですけど、言うてみれば、これってSDGsですよね。やっと時代が私に追いついてくれはった(笑)」
極限状態の食材はまさかの「猫缶」
「そうは言うても、もちろんしんどい時期もありましたよ」
20歳のころ、作った料理のほとんどは働きに出るかつみさんに食べさせていたさゆりさん。なんと救急車で運ばれ、栄養失調と診断されたことも。それでも迷惑をかけたくないと、親や仕事の仲間にも相談できない日々が続いていた。しかも、相変わらず、お金はない。そんなとき、思いもかけない救世主(?)が現れた。
「出演した番組でキャットフード1年分をいただいたんです! 本当に食材が何もなくなって困っていたので、すっごく助かりました」
まさかの食材キャットフード! 一体どんな料理になったのだろうか?
「猫用のマグロ缶と人間用のツナ缶の違いって、要するに塩分なんです。猫用のほうが塩けが足りないので、マヨネーズとお塩を足してツナ風にして、それをツナサンドにして食卓に出しました。かつみさんは、何の疑いも持たずに全部食べてくれました♪
皆さんにはまねしてみてね、なんて言えませんけど……。かつみさんは私のどんな料理でもおいしく食べてくれて、かつ、おなかを壊したりもしないので(笑)、失敗を恐れずにお料理できます!」
過酷な状況でも手を取り合い、明るく前向きに乗り越えてきた2人。しかし、30年以上を共に過ごす中で、大きな仲たがいなどはなかったのだろうか?
「億単位の借金って、実際、本当にしんどいです。でも私は、借金が原因でケンカをするのは借金に負けることと同じだと思って、絶対に嫌でした。
だからいつもできるだけポジティブに、どれだけ貧相な食卓でも料理にわざと派手な名前をつけて、華やかに楽しくしようとしたり。かつみさんもそれに応えて一緒に楽しくやってくれたから、ここまでこれたんやと思います」
レシピ本の中に並ぶ「昨日、すき焼きだったので♪」「疑惑のうな疑丼」「アルマゲドンならぬ揚げ混ぜ丼」などのコミカルなネーミングには、そんな思いが込められている。
80歳になっても2人で仕事したい
2人の努力が実って、借金は数年前に完済のめどがたった。そして今では、節約は続けつつも、昔では考えられないほど豊かな食生活を送ることができるように。
「借金は、2人にとって共通の敵で、倒すべきラスボスなんです。何度も勝ったり負けたりしながら、経験値を増やして次のステージに進んできたっていうイメージで」
かつみさんは現在60歳、さゆりさんは53歳。年を重ねた今、食事の内容は“美容”と“健康”にも重点を置いているという。夫婦そろって実年齢より若く見えると評判だが、その秘訣はさゆりさんの料理にありそうだ。
「私たちの最終目標は、80歳を越えてもワーワー言い合いながら、ロケに行ってリポートをすること! 80歳を越えてもこのままのテンションでいたい! そのために、これからも、お財布と身体に優しいお料理を作り続けます」
菜~んと!ゴマった!捨てるとこで炊いたん
「八百屋さん、捨てはるとこ、ちょうだい!」から生まれた究極0円レシピ♪
【材料】
・葉付き大根
・しょうゆ
・アスパラガス
・ごま油
・顆粒和風だし
・すりごま
・砂糖
・ゆで卵
・お好みで七味唐辛子
【作り方】
(1)葉と身を分けて切る
大根は葉と切り分け、身の部分は皮をむき、食べやすい大きさに切る。葉と皮をみじん切りにする。
(2)身の部分を煮る
鍋に大根と水を入れて火にかけ、顆粒和風だし、砂糖、しょうゆ、ゆで卵を加えて大根がやわらかくなるまで煮る。器に盛り、ゆでたアスパラガスを添える。
(3)葉と皮を炒める
みじん切りにした葉と皮をごま油で炒め、砂糖としょうゆで調味。たっぷりのすりごまとお好みで七味唐辛子をふってできあがり♪
※さゆりさんが目分量で作っているのと、それぞれの好みの味に仕上げてほしいという思いから、レシピには分量を掲載していません
『じゃがりコロッケ』
ファンからもらうお菓子でコロッケ! おいなりさんみたいに、うすあげに入れるのがコツ。
【材料】
・好みの味の『じゃがりこ』
・顆粒コンソメ
・お湯
・うすあげ
・砂糖
・オリーブ油
・お好みの野菜
【作り方】
(1)じゃがりこにお湯をそそいでつぶす
じゃがりこを耐熱容器に移し替えてお湯をそそいで、スプーンでつぶす。少しやわらかめがおすすめ。
(2)味つけ
砂糖と顆粒コンソメを少々入れて混ぜる。
(3)うすあげで包んで焼く
うすあげを半分に切り、裏返す。(2)をつめて爪楊枝で留め、オリーブ油を熱したフライパンでこんがり焼いたらできあがり。ブロッコリーなどお好みの野菜を添えても。
『もやしのせいろ蒸し』
節約の神食材“もやし”を使った激安レシピ♪借金時代のソウルフードといえばコレです!
【材料】
・もやし
・塩
・豚バラ肉
・こしょう
・白ねぎ
・ポン酢しょうゆ
【作り方】
(1)鍋の準備
お鍋に水をはり、蒸し器の上にもやし、豚肉をのせる。
(2)味つけし蒸す
塩、こしょうをふり、蒸すだけ。豚肉に火が通り、もやしの歯ごたえが残るくらいが目安。
(3)白ねぎをのせて完成
小口切りにした白ねぎの青い部分をのせる。ポン酢しょうゆにつけて食べる。
(取材・文/大野瑞紀)