この秋スタートした日曜劇場『下克上球児』は、鈴木亮平演じる高校の社会科教師が問題児だらけの弱小野球部を率いて甲子園を目指すという王道学園スポーツドラマ。この内容に名作『ROOKIES(ルーキーズ)』('08年・TBS系)を思い出した視聴者も多いだろう。
ほかにも『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望』('14年・日本テレビ系)や『ルーズヴェルト・ゲーム』('14年・TBS系)など野球を題材としたドラマは多い。
一方で、野球と同等の人気を誇るサッカーは、ほとんどドラマで扱われることがない。このドラマ界の不思議に関して検証、考察を行った。
なぜ、サッカードラマは作られないのか。「サッカードラマが作られないというよりも野球という競技がドラマに向いているんですよ」と語るのはドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんだ。
サッカードラマが不毛なのはなぜ?
「まず甲子園という明確な目標があるので高校生を主役とした学園ドラマとして作ることができる。『ROOKIES』もそうだし、今回の『下克上球児』もそうですよね。試合以外の部分でもドラマを作りやすいというのが、野球がドラマで扱われやすい大きな理由のひとつだと思います」(カトリーヌさん、以下同)
もちろん、高校サッカーにも冬の選手権大会がある。しかし、Jリーグのユースや海外など、サッカーにはいくつかの選択肢があり、多くの高校生の目指す場所とはいえず、甲子園ほどわかりやすい目標にはなり得ない。さらに野球にはほかのスポーツに比べて圧倒的にドラマ化しやすい特徴があった。
「時間が止められるんですよ。基本的にピッチャーVSバッターという構図なので、時間を自由にコントロールできる。『巨人の星』なんか1球投げるのに1話使ってたじゃないですか(笑)。9回裏2死満塁からの逆転ホームランみたいなことが起こるので、劇的な試合展開を作ることが可能なんですよね」
対して、サッカーは試合中、プレーがほとんど止まることがないので、非常に実写化しづらいそう。
「これがアニメの映像表現ならスローモーションにして、画面を回して……みたいにサッカーでも時間を自由に操れるんですね。でも、これを実写でやろうとするとものすごく手間とお金がかかる。これが野球とサッカーの大きな違いだと思います」
サッカードラマはドラマ界のトラウマに!?
ただ一時期、サッカードラマが量産されたことがあった。Jリーグがスタートした'93年の秋クール、その盛り上がりに便乗しようと『もうひとつのJリーグ』(日本テレビ系)、『オレたちのオーレ!』(TBS系)、『青春オフサイド!女教師と熱血イレブン』(テレビ朝日系)の3作品が放送され、爆死したのだ。
「あれがサッカードラマが作られないもうひとつの理由かもしれませんね。以来、サッカーはドラマ界のトラウマになってます(笑)。
特に印象的だったのが『オレたちのオーレ!』。オレオレ浮かれていたあの時代の空気そのままのドラマで、大鶴義丹さんが主人公なんですけど元ブラジルのサッカー選手で陽気でいいかげんなナンパ男。修という名前から推測するに、当時、夜遊びがさかんに報じられていた武田修宏さんがモデルかと(笑)。
そんな修をブラジルから追いかけてきた女性がいて、それを演じているのがマルシアさん。ふたりはこの共演をきっかけに結婚しますが、ドラマ自体の視聴率は撃沈。半年の放送予定が11話で打ち切りになっちゃいます。つまり、サッカードラマが残したものって大鶴義丹さんとマルシアさんの結婚しかない。しかも離婚してるし(笑)」
競技シーンでの説得力が不可欠
それから約30年の月日がたち、久しぶりにドラマで本格的なサッカーシーンが描かれた。綾野剛主演の『オールドルーキー』('22年・TBS系)の冒頭シーンだ。綾野演じる元日本代表のサッカー選手が現役を引退し、スポーツマネジメント会社で奮闘するという物語で、サッカー以外にも野球、バスケ、スケボー、マラソンなど多種多様な競技が登場し、スポーツドラマの新たな切り口を提示した作品でもある。
「綾野さん演じる新町の代表ゴールシーンが回想で描かれるんですけど、チームメートとして大久保嘉人さん、坪井慶介さん、加地亮さん、那須大亮さんといった元日本代表が撮影に参加していて、本格的なサッカーシーンになっていました。ただゴールを喜ぶ選手たちの輪の中に明らかに元選手ではないぽっちゃりなエキストラさんがいて、一気に冷めた。いちばんリアルだったのは松木安太郎さんの解説だったという(笑)」
やはり、実写でスポーツを描くには、競技シーンでの説得力が不可欠だとカトリーヌさん。
「それを俳優が演じるのは本当に難しい。その点においても野球が有利なんですね。というのも野球ってある種の型みたいなものがあって、形態模写をする人も多いじゃないですか。投げるにしろ打つにしろ、型をマスターすれば野球経験のない俳優でもどうにか様になる。でもサッカーだとそれは無理なんですよね」
そもそも生身の人間が演じる時点で、スポーツをドラマ化するのはハードルが高い。とはいえ、『ノーサイド・ゲーム』('19年・TBS系)、『陸王』('17年・TBS系)など野球以外でも話題となったスポーツを題材にしたドラマがある。『ルーズヴェルト・ゲーム』もそうだが、これらのすべてが池井戸潤原作の日曜劇場なのだ。
「『ノーサイド・ゲーム』はラグビーの話でしたがスポンサー側の企業にも焦点を当てていたし、『陸王』はマラソン自体ではなくスパイク作りがメイン。『ルーズヴェルト・ゲーム』も社会人野球の話で、主人公の唐沢寿明さんは社長でした。要は競技以外の物語が抜群によくできていたんですね。これが面白いスポーツドラマを作るキモだと思うんですよ。
つまり、競技自体をメインにしないで、それ以外の人間ドラマの部分をふくらませていく。競技シーンはなるべく短くし、できるだけリアリティーを持たせる。それが成功するスポーツドラマを作る秘訣だと思います」
そういう意味では同じく日曜劇場の『下克上球児』は大いに期待したいところ。TBSはスポーツもののノウハウは持っているし、主演の鈴木亮平は身体的なリアリティーもある。しかも、生徒役に関しては野球の実力を含めてのオーディションで選ばれているのだ。
「高校野球ものって若手俳優のブレイクチャンスでもあるんです。『ROOKIES』はもちろん、二宮和也さん主演の『弱くても勝てます』などは野球部員役で福士蒼汰さん、山崎賢人さん、間宮祥太朗さん、中島裕翔さん、本郷奏多さんが出演。加えてマネージャー役が有村架純さんという今考えたらあり得ないような豪華なメンツでした。『下克上球児』でもどんな若手俳優が出てくるのか、すごく楽しみです」
(取材・文/蒔田陽平)