物価高騰が続くなか、実質賃金は減少し、節約意識が広がる昨今。これからの季節は電気代とガス代が上がり、さらに家計負担も増える。
すでに目いっぱい節約しているのに、お金が全然増えない……。
結局、無駄遣い!? “お得”の誘惑に注意
「節約を意識している人はコスパにまつわる言葉や情報に敏感。ですが、それがお金が貯まらない原因かも」
そう語るのは、脳科学の観点から無駄遣いを考察する脳神経外科医の菅原道仁先生。
「“お得”だからと即買いしてしまう人を、私は“お得ハンター”と呼んでいるのですが、こういう人は目先の安さにつられ、買う予定がないものにお金をつぎ込んでしまう。これは脳のよくないクセに振り回され、無駄遣いが習慣化している状態です」(菅原先生、以下同)
菅原先生によると、人の脳は怠け者でラクをしたがる。エネルギーをたくさん使う臓器なので、なるべく深く考えずにすませようとするのだ。
「つまり脳はものごとを自動的に処理しがち。だから一見お得に見える情報を『チャンスを逃すと損!』と判断し、衝動買いに走らせます。特に夜や仕事帰りは脳も疲れており、自制が利きにくいので買い物は避けたほうがいい」
この傾向は行動経済学の世界で「損失回避の法則」と呼ばれるが、これが脳が引き起こしがちな“節約の落とし穴”だ。
「普段、私たちは理性を働かせて浪費を防いでいます。買い物をするときに大切なのは、一度立ち止まって『これは浪費にならないか』と自分自身に問う習慣や、時間をつくること。これは“我慢”とは違います。一時の衝動に振り回されずに、『後悔しない選択』をしたいですよね」
欲しいと思ったものでも、写真を撮ったり、その場を離れて「間」をつくると客観的になれるという。
「特に好きなキャラクターの商品などを見つけると、幸福感を感じさせる脳内物質『ドーパミン』が出て、衝動買いをしやすくなります。そんなときは無理やりにでも商品を批判する視点を持つと、購買意欲がトーンダウンします」
「本当に必要か」を見極める習慣が大切
節約アドバイザーの丸山晴美さんも、「いつも倹約を意識して特売セールの常連。でも、なぜかお金が残らない人は結構います」と話す。
「私も“お得”の誘惑に負けないよう、クーポンであれば外出前に本当にお得になるかを熟考します。ただし、飲食店でもらう『次回来店時ドリンク無料』といったものは、すぐに廃棄。
飲み物は食事よりも原価率が低いため、店にとってはいい“撒き餌(まきえ)”。それ目当てで数千円の散財をするわけにはいきません」
と、消費行動の際の冷静さを心がけているそうだ。
また、「店先ではつい特売品に目がいくもの。思わず買ってしまいがちな人は割高でもネットスーパーで必要なものだけを買うほうがいい」と力説する。
貯まらない人が騙されがちな「浪費ワード」をピックアップ。
日常的に反応している人はご注意!
「衝動的な脳のクセを『間』でコントロール」
世の中には“消費者に買わせる”仕掛けがあふれている。
「スーパーで『タイムセール』の文字を見ると、自動的に損をしたくない心理が働きますが、私たちが衝動的に“欲しい”と感じるものの5割以上は数秒待てば不要になるものばかりといわれています。『間』は空ければ空けるほど、理性的になれるもの。
売り場をひと回りして時間を置き、もう一度見ても欲しいなら買うというルールを作るなどして、『欲しいモード』からいったん離れて考えてみて」(菅原先生、以下同)
購入前にどう使うかを具体的に思い描き「本当に自分にとって必要か」を考えることが買い物の満足度を上げる。
「今は人の目が気になる時代ですが、見栄に振り回されないことが大切。『あの人が使っているから』まねするのではなく、自分はどういうふうにお金を使って、どんな人生を送りたいのかイメージを持って。あくまでお金はそのためのツールなのです」
浪費ワード1:タイムセール
スーパーなどで「タイムセール」の張り紙を見ると、さほど欲しいものがなくても「何でもいいから買わなくちゃ!」と躍起になってしまう。
しかし、無理やり買ったものは、あとになって無駄になることが多い。
「人間は『間』を空けるという余裕が持てないときがあります。『残り時間、あと〇分!』という表示を見ると、意味なく焦ってしまう。時間に迫られることで『損失回避の法則』がより強力に働くので、危険です」
テレビショッピングの「残り、あと〇個」の表示も同じ手法なので気をつけたい。
浪費ワード2:〇円以上送料無料
脳のクセである“損することを避けたがる傾向”から、「無料」だともらわなければ損だと感じ、飛びつきたくなってしまう。だが、手に入れるまでが幸せのピークだ。
「例えば、ネットショッピングでよく見かける『〇円以上、送料無料』の文字に踊らされて、必要のないものまで買ってしまうことは、よくありますよね。売り手の思惑がどこにあるか、冷静な脳ならわかるはずです」
浪費ワード3:ラスト1点
脳は行動や決断の自由を制限されると、反発したがる性質がある。「ラスト1点」という売り文句を聞くと、反発を覚えて商品に執着しがち。
「非常にやっかいなのが『ラスト』という言葉。この言葉に煽られると脳は理性よりも感情を優先させ、今すぐ買わないといけない気分になり、無意識の選択をしてしまう」
そんなときは購入後の使い道を想像し、本当に自分に必要か見極めよう。
浪費ワード4:〇か月間実質無料
アプリや通信会社、サブスクが行っている「まずは〇か月無料体験」。菅原先生によれば、脳は一度手にしたものに愛着を感じて、手放したくなくなる傾向があるという。
「お試し感覚で契約すると解約の面倒くささも手伝って、ダラダラ会費を払い続けてしまいます。『返品OK』も同様です」
無料ならと安易に契約するのは危険。まず自分に利用目的があるかを考えてみて。
浪費ワード5:「あの〇〇さんも使っている」
「話題のタレントや有名なスポーツ選手を広告塔にして『あの○○さんも使っている』と謳っている商品に対して、私たちは『あの人も使っていて高く評価しているから、良い商品に違いない』と思い込みがちなんです」
これはイメージが先行して実際の質よりも良く見えてしまう傾向「ハロー効果」が原因だ。さらに、皆が買って支持している製品やサービスは価値が高いものと思い込むので、購買意欲が上がる。
流行りものに弱い日本人は、特にこの影響を受けやすいので脳に騙されないようにしたい。
「買い物はひとりが理想。メリハリのある出費を」
「買い出しは家族で行くとレジャー感覚になり、余計な出費をしやすいです。気分が高揚し、『半額』の言葉に煽られ、つい無駄買いをしてしまったり。品ぞろえのいい午前中にひとりで行くのがおすすめです」(丸山さん、以下同)
節約下手な人は料理の品数を減らしがちだが、栄養バランスを考えた食事で健康を保つことが、長期的にはお得だ。
「高齢者にありがちなのは寂しさから買い物に行くパターン。家でできる運動をする、散歩など、ほかのストレス発散のための習慣を見つけて」
実は若いころは浪費家だった丸山さん。貯めた金額を書き出すことで、浪費ワードに惑わされにくくなったと話す。
「貯蓄の残高などをまとめた資産ノートを作り、金額を可視化すると『○○万円もある』と思えるようになり、効果の出ない節約に走らなくなりました。すべて節約するのではなく、出費にはメリハリをつけて、年1回は旅行を楽しむなど遊びも大切に」
浪費ワード6:半額
店頭で貼ってある商品があると、つい目がいってしまうのが半額シール。
「見ただけで興奮して飛びつきがちです。半額商品は元値と値下げ価格を比べたらお得なのかもしれませんが、そもそも、それが半額になっていなければ手を出さないものかもしれません。結果、無駄な買い物ですよね」
その商品が「いくら安くなっているか」より、「元の金額でも買うかどうか」ということを基準にして購入を検討してみることが大切だ。
浪費ワード7:よりどり〇点
「例えば『よりどり3点』などと聞くと、『あと2点買わなくちゃ!』と探してしまいますよね。私自身、あとになって『1つでよかったな……』と後悔したことも」
これは値下げして儲(もう)けを増やす価格戦略のひとつ。店側は“合わせ買い”をさせることで消費者に罪悪感なく衝動買いをしてもらい、客単価を上げるメリットがある。
「1個あたりの価格が安くても使わないものが入っていれば損。普段から底値や使い道を意識することが大切です」
浪費ワード8:もやし
昔は1袋が5円や10円程度だったことから節約食材とされていたもやしだが、現在は30~40円程度とだいぶ値段が上がった。
「ボリュームから考えるとキャベツや白菜などは、安いときには100円以下で購入できる上に、料理のバリエーションも広い。たっぷりの量を使い回せます。もやしは足も早い。旬の野菜のほうがずっと安くてお得です」
もやしイコール安いという先入観は捨て、状況に応じてうまく活用していこう。
浪費ワード9:業務用スーパー
物価高から業務用スーパーやコストコが人気だが、大容量の商品が多い。グラム当たりで換算したら安いかもしれないが、容量が大きい分、払う金額も高い。
「買って食べて口に合わなかったら、大量廃棄となってしまい、かなり損です」
食べ慣れていない商品についてはリスクが高いことも念頭に入れて活用すべき。
浪費ワード10:100円ショップ
一見、節約によさそうな100円ショップだが、スーパーや薬局のプライベートブランドで買ったほうが結果的に安いというケースも。
「安いからと必要がないものを買ってしまうことも多いので、事前に決めていたもの以外は買わないのが正解。最近では200円や500円の商品もあるので、『これだったらスーパーで買えばよかった……』と後悔したことも」
「百均だから安い」という固定観念で決めつけてしまわないように注意が必要だ。
(取材・文/オフィス三銃士)