一般家庭の葬儀費用の平均は189万円(日本消費者協会2010年調査)。こんなにはとてもかけられないと、「シンプルなお葬式」を望む人が増える中で、登場してきたのがネットによる「お坊さん派遣」だ。手軽に申し込め、料金がわかりやすいと利用者が増え続けている。それなのに全日本仏教会が猛反対するのは、なぜ?
Amazon僧侶派遣サービスがきっかけで論争に
「父の三回忌が迫っているけれど、お墓は遠くて簡単には帰れないし、やらなくてもいいかなって思っていたんです。でも、親不孝者みたいで気になっていたら、インターネットでお坊さんを頼めると知り、申し込むことにしました。クレジットカードで払えるので便利だし、かかる費用も、わかりやすいし……」と話してくれたのは、都内在住の斎藤陽子さん。
インターネット通販のAmazonが僧侶派遣サービスを始めたのが去年の12月。このことが『ビートたけしのTV タックル』や爆笑問題がMCを務める『お坊さんバラエティぶっちゃけ寺』(ともにテレビ朝日系)で取り上げられ、『一律料金での僧侶派遣』についてお坊さんたちも賛成派、反対派に分かれて大論争になったので、覚えている人もいるだろう。
慣習とはいえ、お坊さんにかかる費用は、まったく不明瞭。
例えば、お葬式にかかる費用(お経・戒名・お布施)は平均で44万6000円(日本消費者協会「第10回『葬儀についてのアンケート調査』報告書」/2014年)だが、簡単にやろうとすると16万円ぐらいでもできる。戒名料にしても表のように金額のケタが違ってくる。
「お布施はお気持ち」vs「一律料金は金儲け」
何だかわからないまま、お坊さん側の言い値で決まっていたので、お坊さん派遣での明朗会計は大歓迎したいところだが、いったい何で論争が起きているのか。
テレビ番組の『ぶっちゃけ寺』に「料金一律のお坊さん派遣賛成派」として登場した経王院(東京都)住職で、自身も派遣僧侶として多くの法事に出向いている仲田恵慶さんの説明を聞こう。
「大きな意見の違いは、お布施です。お布施は、昔は仏様に貴重だった布や、紙、食べ物を提供していたものなんです。仏教を守りたいという気持ちで差し出したわけです。今はお金になりましたが、お布施は『あなたのお気持ちで』というのは変わっていません」
一方で、一律で金額を決めて、お金をもらう派遣僧侶たちは、仏教を商品化し金儲けに走っているというのが全日本仏教会の主張だ。全日本仏教会では、Amazonに対して派遣僧侶の販売サービスの中止を申し入れている。
僧侶冥利に尽きる「来てもらってよかった、また次回も」
「しかし、不透明すぎるお布施の価格設定が、多くの人の中に不信感を生み、仏教離れを起こしているのも現実にはあるわけです。お気持ちと言いながら、では千円でいいのか、となると、大部分のお坊さんは、快く受け入れないでしょう。
一定の金額を提示し、それで納得された方が、お坊さんを呼んでくれるのなら、意味があると考えています。僧侶の仕事は本来、読経の裏にある布教です。布教をする機会を生かして活動することこそが、本当に仏教を守ることであり、使命だと思うのです」(仲田住職)
派遣僧侶を頼む側は、「とりあえずお坊さんに来てもらって、法事をすませたい」という人が多いそうだ。お坊さんへの期待は最初は少ない。
「それでも、お経をあげて、お話をさせていただくと、お顔が変わります。“お坊さんに来てもらってよかった、また次回も”と言っていただくと、僧侶冥利に尽きます」(仲田住職)
需要と供給が一致
僧侶紹介サービス「お坊さん便」の場合は、一周忌以降の法要やお盆にお坊さんにお経を読んでもらうのは3万5000円ポッキリ。心づけも交通費もすべて含まれ、とにかくわかりやすい。
お坊さん便を手がける(株)みんれび副社長の秋田将志さんは、
「葬儀社で、お寺とのお付き合いがほとんどなく、お葬式や法事・法要にお坊さんを頼みたくてもどうしたらいいのか、わからないという方がとても多いことを知り、お坊さんの紹介を始めました」
無宗教・無信心者でも、やっぱり法事は気になる。そして、お坊さん側にも事情が。
「お寺は全国に約8万もあり、コンビニよりも多く、お坊さんは約40万人もいると言われています。地方では過疎化も進み、檀家も激減してお寺の経営も難しくなり、僧侶紹介サービスに登録を希望されるお坊さんも増えているそうです」(秋田さん)
お坊さんにお願いしたい側と、お坊さん側の需要と供給が一致したというわけだ。
「仏教会から、われわれに対しての連絡は何もありません。対立する必要はなく、それぞれの立場で、故人を供養する大切さを伝えていければよいと思っています」
「手抜き?」の不安や「檀家として」お寺を支える人も
しかし、いいことばかりではない。一部の僧侶紹介サービスでは、坊さんが読経で一部を飛ばして手を抜いたのではないかといった話も出てきた。「派遣のお坊さんは質が悪いのでは?」という不安の声が流れ始めた。
「提携するときに、住職としての経験だけでなくお人柄も含めて信頼できる方を選ばせてもらっています」(秋田さん)
こうして派遣僧侶は、時代の流れの中で受け入れられてきているが、菩提寺との結びつきを大事にしている人も多い。
新しいお寺のあり方を追求している一般社団法人お寺の未来代表理事の井出悦郎さんは、
「全国的には菩提寺のある人は少なくありません。
先祖代々お世話になっているお寺、その中には格式のあるお寺もあるでしょう。そうしたお寺との付き合いを檀家として大切にしている人もいます。お坊さんにお経を読んでもらうだけではなく、100年単位で菩提寺の維持・修繕などに関わっている人もいます。
派遣の僧侶に頼むのもいい。菩提寺のお坊さんに頼むのもいい、ご先祖様と向き合い、自らの生き方を問い直す機会が法事ですので、家族の生活観に合った形を考えることが大切だと思います」