今やドラマに欠かせない存在となった安田顕。全国ロードショーの映画としては初主演となる『俳優 亀岡拓次』が公開される。
安田といえば、森崎博之、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真とともに『TEAM NACS』の一員としてもおなじみ。北海学園大学の演劇研究会に始まり、今や“日本一チケットが取れない劇団”に。だが意外なことに、安田は大学卒業後、病院事務として働いていた。
「やっぱり卒業したら就職するものだと思っていましたから。北海道では、役者を目指す土壌もありませんでしたし」
しかし、サラリーマンは10か月で辞めてしまったと、やや苦い顔。
「正直な話をさせてもらうと、仕事に対して、ちゃんと向き合えなかった。芝居に逃げた、という形だと思います。だから“新入社員にひと言”と聞かれることがあっても“私はこんな人間なんで、言える言葉は何もありません”といつも答えます(笑い)」
辞めた後、当時の上司が年賀状をくれた。そこには《信頼は一度崩れたら元に戻せません。今後はどうするか知らないけど、頑張ってください》という一筆が。
「そんな言葉をいただいて、感謝しかなかったです。それ以降、何かしらの取り組み方が自分の中で変わりました。仕事が嫌で、芝居に寄っていったのは事実ですが、でも今はそんな思いでは取り組んでいません。だから、本当に感謝しています」
役者を生業にするにあたり、NACSメンバーに触発された部分も多かったのだろうか?
「それは違いますね。5人組なのですが、リーダーをやっている森崎も就職していましたし、大泉はまだ学生でしたし。森崎が(サラリーマンを辞めて)北海道に帰ってきてからが、NACSとしてはスタートでしたから」
今やメンバーの大半が、連ドラの常連であり、主演俳優。バラエティーでも大活躍を見せている。彼らはよきライバル? それとも戦友?
「今、こうして作品に出していただいているのは、やっぱりファンのみなさんの支えがあってのこと。ファンのみなさんが一番求めていることが、(自分が)TEAM NACSとして活動することだと思います。4人と出会えたことは、感謝しています。ただ、なかなか言葉にできないものだなぁとはよく思います。発したその言葉だけがひとり歩きしていきますから。
ちょっと話がズレてしまって申し訳ないんですが、『俳優 亀岡拓次』の好きなところは、言葉にできない感情をきちんと画で示して、結論づけないところ。それぞれにゆだねる、とてもステキな映画なんです。僕自身、言葉が拙いものですから、自分自身の言葉で表現することで、NACSが安っぽく感じられるのは嫌だなぁとは思っています」
映画『俳優 亀岡拓次』
亀岡拓次(安田顕)、37歳独身。職業は脇役、趣味はお酒。現場を渡り歩き、来た仕事は断らない。そんな“最強の脇役”の不器用で愛すべき恋と人生に笑って、ほっこり。奇想天外なエンターテイメント。テアトル新宿ほか全国ロードショー。
撮影/廣瀬靖士