今井雅之さん(享年54)が病魔に倒れてから1年。“自衛隊出身の俳優”という異色な経歴で、ハリウッドでライフワークの舞台『THE WINDS OF GOD』をヒットさせたことでも知られる。
亡くなる1か月前、'15年4月30日に開かれた記者会見で自分がステージⅣのがんであることを発表。
「あまりにも激やせした姿に驚いた人も多かったです」(スポーツ紙記者)
発病から最期までを見守ったのは、看護師の資格を持つ姉の辻井陽子さんだった。
「'14年7月に、雅之の呼びかけで両親の誕生日会をしました。両親が80歳になったときに“これからは毎年、家族で集まって祝おう”と雅之が提案して毎年開いていたものです。そのとき彼は父と一緒に軍歌を歌ったりしてとても楽しそうでしたので、まさか、がんが身体中に転移していたなんて思いもしませんでした。少しやせていましたが、役作りの一環なのかなと思った程度でした」(陽子さん)
この少し後に体調を崩して今井さんは病院で検査を受けるが、そのときにはがんは発見されなかった。
「東京の病院で、腸の風邪だと診断されました。先生がそう思ったのもわからなくもないですよ。頑丈そうな男がお腹の調子が悪いってやってきても、そんな重篤な病気にかかっていると思わないでしょうね。そのころはそんなにやせてもいませんでしたから。
体力が落ちたということで、そのころからニンニク注射を打ち始めました。それががん細胞に栄養を与えることになってしまったんです。がんだと気づいていれば、状況はもうちょっと違っていたかもしれません」(陽子さん)
■父親の存在は家族にとって絶対的
陽子さんは長女で、今井さんが末っ子。間に長男の裕之さんがいる。3人の姉弟は、兵庫県の城崎で生まれ、少年時代を過ごした。
「すごい田舎で、小学校は全校生徒あわせても70~80人くらいで、1学年が15人ほど。父が自衛官だったので、お休みになると家族で基地の自衛隊祭りに行くんです。遊園地や動物園には行ったことがありませんでしたね。
でも、自衛隊員の戦闘糧食の缶詰のウインナーや鶏飯。これが最高においしかったんです。質素な暮らしで、おやつは古くて黒くなったバナナ。黄色のものは食べられないと勘違いしていました(笑)」(陽子さん)
貧しくてもその中で“どう楽しく生きてゆくか”を工夫して暮らしていく時代だったのだという。
「私と裕之はどちらも短気でしょっちゅうケンカをしていました。それを見て“そんなのやめとき!”と仲裁に入るのが雅之。世間的にはヤンチャなイメージかもしれませんが、実は、ものごとを冷静沈着に見つめるタイプでした。ですから、雅之は私の中では“おとなしくてかわいい弟”なんです」(陽子さん)
父親は絶対的な権威を持っていて、一家の隊長のような存在だった。
「叱るときにも怒鳴ったり叩いたりはしないで、必ず“自分で考えろ”と言っていました。自衛官は常に危険と隣り合わせで、自分の身を守るためには自分で状況判断しなくてはいけないんです。雅之の『THE WINDS OF GOD』が観客に考えさせる作りになっているのは、たぶん父親の影響でしょうね」(陽子さん)
<追悼上映イベントのお知らせ>
今井さんが監督・主演を務めた映画『THE WINDS OF GOD‐KAMIKAZE‐』の追悼上映イベントが5月21日に『TOKYO FMホール』にて開催される。