埼玉県北部で11月22日午前、110番通報が相次いだ。
「死体のようなものが川に浮かんでいる」
「車が流されている」
同県深谷市から熊谷市に流れる利根川で、高齢の夫婦が死亡しているのが見つかった。
「娘さんは認知症のお母さんのことを“死ぬまで面倒みなくちゃね”と言っていました。明るくて優しい人でね」(近所の主婦)
声を震わせながら、こう続けた。
「それが最近では“お父さんも介護しなくちゃいけないことになるかも”って。でも、お母さんの介護サービスを申請したばかりだったし、お父さんは1週間後に首の手術をする予定だったのに、なぜ、それを待たずに一家心中なんて考えてしまったのか……」(前出の主婦)
深谷市稲荷町の無職・藤田慶秀さん(74)と妻ヨキさん(81)と判明した。県警深谷署は23日、川岸で救助された三女の無職・波方敦子容疑者(47)を母・ヨキさんの殺害容疑と父・慶秀さんへの自殺幇助容疑で逮捕した。
「母が約10年前から重い認知症で介護に疲れた。生活苦で貯金もない。年金もない。仕事を辞めた父が“死にたい”というので、車で川に突っ込んで無理心中を図った」
などと供述しているという。
一家は3人暮らし。築約40年の平屋建て賃貸住宅は6畳2間と4畳半、台所の3K約40平方メートルで家賃は月3000円と破格。約34年住んでいる。入居時はヨキさんと波方容疑者の母娘ふたりだった。
「最初はお父さんがいなくて三女が中学生のころにお母さんが契約に来ました。家賃滞納は1回もありません。入居して数年後、お父さんが一緒に住むようになったんです」(大家)
慶秀さんは若いころから新聞配達で生計を立ててきた。つい最近まで深谷市近郊の新聞販売店で約30年間働いていた。朝刊配達のアルバイトで給与は月約18万~19万円だった。店主は言う。
「昔気質で責任感が強いタイプ。深夜2時から始まる仕事ですが、1日も休んだことはない。一家を背負う大黒柱との思いが強かったようです。うちに来る前、稼ぎを競艇につぎ込んで借金し、奥さんと子どもを残して家を出て、何年も音信不通にした時期があったようです。“家に戻ったら、女房がやさしく迎え入れてくれた。本当に苦労をかけた”と言っていました」
慶秀さんは人が変わったように家族のために働いた。自他ともに認める愛妻家だった。それはヨキさんが認知症を患っても変わらなかった。
「奥さんが認知症になられてからも“オレはかあちゃんを愛しているんだ”と恥ずかしがるふうもなく、堂々と公言していました」(同店主)
〈フリーライター山嵜信明と週刊女性取材班〉