「亡くなった生徒が万引き行為をしたことは1度もない。何らかのかたち(見張りなど)で万引きにかかわったこともない。実際に万引きしたのは、全く名前の違う生徒です」
11日夕方の会見で説明したのは広島・府中町の町立府中緑ヶ丘中学の坂元弘校長。この3月に定年退職を迎える。
週刊女性が、学校責任者として退職金返還などを考えているかどうか尋ねると、こう回答。
「いまは対応に追われて手いっぱいで、何も考えていません」
同校3年の男子生徒Aくん(当時15)が自宅で自殺したのは昨年12月8日のこと。担任の女性教諭から、1年生のときに万引きしたと濡れ衣を着せられ、希望の私立高校を推薦で専願受験する道を閉ざされた。
前日夕方、Aくんは学校から推薦がもらえないことを母親に伝えた。小さな声で涙を流していたという。そして保護者を交えた三者面談当日、姿を見せず命を絶った。
「Aくんの第1志望は公立高校で、第2志望として私立高校を1校に絞って専願受験するつもりでいた。専願は合格率が高いので私立を“すべり止め”にできる。しかし、別の生徒の万引きが学校側の記録ミスでAくんの非行歴となっていた」(地元記者)
一般入試で希望する私立に合格できる保証はない。第1志望の公立高校のランクを下げるか、別の私立をすべり止めにするしかなくなり、進路設計が狂ったとみられる。
「学校は2年前、万引きの記録ミスに気づいて会議で配った書類を修正したが、パソコンのデータ修正を怠った。校長は修正を指示せず、誰も直そうとしなかった。担任教諭は間違ったままのパソコンデータに基づき、Aくんを万引き犯扱いした」(同記者)
担任教諭とAくんのやりとりは右下の表のとおり。いずれも教室の外の廊下で5分程度の立ち話などによる「進路面談」だったという。
「廊下に机とイスを置いて行ったケースもあった。空き教室がなかったわけではない。落ち着いてじっくり話せる環境とはいえず、進路面談にはふさわしくなかった」(府中町学校教育課)
やりとりの信憑性にも疑問符がつく。学校側の聞き取り調査に担任教諭がそう答えたというものにすぎず、遺族の言い分はほとんど盛り込まれていないからだ。
しかし、坂元校長は11日の会見で「担任教諭がウソをついているとは思わない。脚色したとも考えていない」として、次のように話した。
「担任教諭への聞き取りは、メンバーを変えて3度しているんです。それが3度ともほぼ同じ内容なので」
聞き取りメンバーを変えたぐらいで信用できると思っているのだろうか。そもそも、最初にパソコンで万引きした生徒名を誤記した生徒指導の担当教諭は、事件現場のコンビニエンスストアに駆けつけた教諭から口頭で報告を受けた際、メモをとっていなかった。
学校は、翌日発生した教師に対する校内暴力事案にあたふたし、本来、万引きした生徒に課せられる奉仕活動や5者面談などの規定をすべて怠った。ずさんな対応は幾重にも重なった。
さらに、私立高校の推薦基準は昨年11月20日、対象とする非行歴を「3年時のみ」から「1~3年時を通して」に急きょ変えた。教育評論家の尾木直樹氏は「こんなバカなことをする学校はない」と憤る。
「1年時から非行歴を適用するというなら、入学式のときに言わないとダメですよ。試合の最中に“ルール変更でアウト”と言ったのと同じです。いろいろな失敗をするのが子どもなんです。
入学式の帰りに文房具店で万引きしたのが見つかったら、もう取り返しようがないわけでしょ。あやまちを繰り返さないように人格形成していかなければならないのに、教育が成り立たないじゃないですか」(尾木氏)
取材・文/フリーライター・山嵜信明と週刊女性取材班