強い日差しが日本列島を照りつけた2015年の夏。連日の猛暑だったのにもかかわらず、電力不足に陥ったという話はまるで聞こえてこない。川内原発1号機が再稼働されるまで、1年11か月にわたり国内の“原発ゼロ”状態は維持されていた。

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瀬戸内を臨む伊方原発。88年には直近のみかん畑に米軍の大型ヘリが墜落した

 エネルギー政策に詳しいNPO法人『環境エネルギー政策研究所』所長の飯田哲也さんが解説する。

「電力会社が電力不足を真剣に心配したのは、3・11直後に輪番停電したときと2011年夏の東日本。そして2012年に原発がすべて止まったあとの関西と九州の一部。それ以降は原発を止めたい側も、電力会社のほうも、電気が足りることはお互いにわかっています」(飯田さん、以下同)

 それでも原発を動かさざるをえないのは、こんな事情があるからだ。

「廃炉になっていない以上、原発を動かさなくても固定費がかかるけれど、何も発電しない。これは例えば、電車の1日乗り放題チケットにお金を払ってしまったのだから、乗ったら乗るだけトク、わざわざタクシーで移動するなんてソンと考えるのと同じ構図です」

 要は目先のカネのため。現に川内原発を再稼働したことで、九州電力は5年ぶりの黒字となった。また、原発の立地自治体が再稼働を進める理由も、同様の経済的事情が挙げられる。

「原発のある立地自治体は新潟県を除けば推進一色で固まっている状況。原発を動かせば地元に仕事が回るなどの経済的な要因が大きい。首長も議会も、原発を押し進める側の人たちで構成されているので、立ち止まって冷静に考えようという構図になっていません」

 そんな地元自治体の政治を、安倍政権は「いかにもえげつない」やり方でバックアップする。

「原発の立地自治体に支払われる交付金について、政府は再稼働した自治体は手厚くして、動かさない自治体は抑制するように変えました。地元を動かすインセンティブをより強くしたわけです。金で、アメとムチを同時に与えています」

 さらにその背後には、エネルギー源で原子力が占める比率を3・11前に戻そうと狙う、いわゆる『原子力ムラ』の存在がある。

「再稼働して、それが順調に行き始めたら、古い原発の敷地内に新しい原発を建てる『リプレース』を進める。リプレースが軌道に乗れば今度は増設。増設がうまくいったら次は新設。そんな“ロードマップ”を描いているため、まずは再稼働が必要というわけです」