国が発表した初産の平均年齢は30.6歳となった。“卵子が老化する”と2012年にNHKが報じた内容は、晩婚化・晩産化が進む日本で多くの女性に衝撃を与えた。そこで注目されたのが卵子を凍結保存する技術。浦安市では少子化対策として予算を組み、凍結に要する費用への補助を行う。
千葉・浦安市が導入した卵子凍結の公金助成を利用し今年5月、20代後半の女性が、将来の出産に備え卵子を凍結保存。そのことを6月、浦安市と卵子凍結の仕組みを作った順天堂大学医学部附属浦安病院が、発表した。
卵子は加齢とともに老化する。「出産の予定はまだ先だが、若い卵子を取っておきたい」という女性の期待が込められる卵子凍結技術だが、市民からはこんな声があったと浦安市の担当者は話す。
「いい制度だと賛成する声と晩婚化を助長するのではないかという両方の声があります」
浦安市が卵子凍結を助成する背景には、少子化対策に力を入れたい思いがある。2014年の合計特殊出生率は全国平均1.42に対し、浦安市は1.09と低い水準。
「直接的な対策ではないにしても、あくまでも選択肢のひとつとしてとらえていただければ。決して晩婚化を助長するものではありません」(浦安市の担当者)
取材した市民の声は、こうだ。
「すごくいいこと。私は子どもがいるけど、同年代で悩んでいる友人もいますし、私も悩んでいたら利用したと思う」(30代女性)
だが、渋い表情なのは60代の男性。
「安全性がわからないから、賛成できない。そもそも国が、安心して産んで育てられる環境にすることが先だよ」
と、さまざま。浦安市は凍結保存の希望者向けの無料セミナーを昨年の7月から月に1度開催している。
「参加者は、5月末までで43人です。そのうち12人が希望し、すでに1人が卵子凍結を行いました。希望者の3分の2は、健康不安によるものです。
女性の病気だけでなく、男性側のものも含まれています。残りの3分の1は周囲にすすめられた人。パートナーがいないから困っています、という人は1人もいません」(順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科の菊地盤先任准教授)
■費用の問題をクリアしてもまだ問題が
セミナーに参加しても卵子凍結を希望しない人の多くは、凍結卵子は万能、という誤った期待で参加するため。
「若い卵子を使用することで自身が高齢になったときの卵子よりは高い妊娠率を維持できますが、体外受精が100%でないように、妊娠率・生産率は20%~30%。必ず妊娠できるものではないことは、ちゃんと理解してほしい」(菊地先任准教授)
慶應義塾大学の吉村泰典名誉教授の見立てはさらに厳しい。
「卵子が10個取れたら、1回子どもをつくれるかもしれない。10%ですね。その程度のレベルということは知るべきです。いかに若い卵子を使用したとしても、高齢での出産は母子ともにリスクがあることも留意するべきです」
助成がなければ、すべて自費診療になる卵子凍結。浦安市では診察代・投薬・採血などの費用約10万円を自己負担するだけですむが、通常は費用が高額になる。
「病院によって違いますが、卵子1個凍結するのに、年間1万~2万円。採卵と保存を含めて、80万~100万円はかかるでしょうね。保存する卵子の数で、値段は変わります」(吉村名誉教授)
費用の問題をクリアしても、その先に気がかりな問題がある。
「受精卵の凍結は、技術として確立されているが、凍結した未受精卵子を使用したデータがまだ少ないため、わからないことが多い。現在のところ、明らかな問題があるとの報告はされていません。しかし、問題が起こらないということではありません」(吉村名誉教授)