全国のラーメン店がどんぶり支援
自分が動けば協力や支援が得られる。それを実感した人がもうひとりいる。嘉島町でラーメン店『陽向』を営む内田哲史さんだ。3歳のとき「ラーメン屋さんになりたい」と書いたほどのラーメン好き。大学時代からラーメン店でアルバイトをし、2013年に自分の店を嘉島に構えた。スープは複数の釜を使い新しいスープを継ぎ足して味を深めていく「呼び戻し」技法で作る。熊本ラーメンで特徴的な焦がしニンニクは使わず新しいラーメンを開発した。
「クセはありますが、地元・嘉島の方に気に入ってもらえたようで、週に4回食べにくるお客さんもいるんですよ」
私も食べたが、豚骨のうまみがしみじみとおいしい。
地震当時は、建物こそ無事だったが、内部は惨憺たる状況だった。
「どんぶりもスープも全滅で、呆然としました。でも、ゴールデンウイークにはなんとか開けたかった」
そんな状況を救ってくれたのは横のつながりだった。震災直後、仲間が2㌧トラック4台分の救援物資を持ってきてくれた。全国のラーメン店から、どんぶりも集まった。
壁にはどこから提供されたかがわかる地図が貼ってある。
「今もそのどんぶりを使っています。あらためて3歳のときの夢を思い出しました。ラーメンは僕の一部。ラーメンを通じて、これからもお客さんの笑顔が見たいんです」
甲佐と嘉島。ふたつの町を実際に歩いて人に接してみると、そこに住んでいるひとりひとりがいかに踏ん張っているかが見えてくる。
そういう人たちが助け合い、声をかけあいながら、より強固な人のつながりを取り戻し、町の復興を進めていくに違いない。
◎取材・文/亀山早苗
かめやま・さなえ 1960年、東京都生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに幅広くノンフィクションを執筆。熊本県のキャラクター「くまもん」に魅せられ、関連書籍を出版。震災後も20回熊本に通い詰め、取材を続ける。近著に『日本一赤ちゃんが産まれる病院 熊本・わさもん医師の「改革」のヒミツ』