中学校の女子グループレベル
九州地方で働く保育士の青山美紀さん(仮名・30代)は、発言を曲解され、ひどい目に遭ったことがあるという。
「私の話を親身に聞いてくれていると思った先生に、“大変でしょ?”と聞かれたことがあって、“大丈夫です。打たれ強いので”と普通に返しました。ある日、周りの先生のあたりが強くなって、いじめ? って感じることがありました。
仲のいい先生が教えてくれたんですが、“青山先生は怒られても、打たれ強いとか言って反省しないみたい”と言いふらされていたんです。“打たれ強い”を、そんなふうにとられるとは思いませんでした。もう、誰を信じていいのかわからなくなりましたね」
さらにこじれると、あいさつをしても無視、わざと目の前でコソコソ話をされたりすることもあるという。
「中学校の女子のグループって感じです」(前出・青山さん)
と保育園の居心地の悪い一面を、そうたとえる。
介護・保育・福祉業界の労働組合『介護・保育ユニオン』(本部=東京都世田谷区)には、現場からのさまざまな相談事が持ち込まれる。
「休憩時間がなかったり、サービス残業を強いられるといった過重労働に対する相談がいちばん多い。精神的にも肉体的にもきつい現場なんです。賃金の低さへの相談もあります。人が育たず、新しい人が入らないため、保育士たちは疲れ切っています。一部の経営者は思いどおりに運営したいと、園を維持するために保育士たちを使い潰している」
と担当者は指摘する。
行事の準備、行政に提出する書類作成などは就業時間中にこなせず、サービス残業や持ち帰りが日常化している。そんな現状を訴えるため、前出の全国福祉保育労働組合は3月、保育士らによる全国一斉ストライキを決行、東海支部からは100人以上の保育士が参加した。
前出・蓑輪准教授は、「生活できる賃金と適切な労働時間になるよう行政が予算をつけ、人が増えれば仕事が分担できるので残業時間は減り、休憩時間もとれます。そうすれば余裕のないギスギス感は緩和され、人間関係も改善、離職者も減り、再就職する人も増えると思います」と、好循環への道を提唱する。
蓑輪准教授の調査によれば、「95%の保育士が仕事にやりがいを持っていると回答しています」
と、仕事そのものへの満足感は高い職種。
前出・仲宗根さんは、
「子どもの成長を間近で見られるので、辞められません。嫌なことがあっても、“先生ありがとう”、その言葉でみんなチャラになる」
と打ち明ける。
理不尽なルールや厄介な人間関係はあるものの、保育の現場には、子どもの成長を見守れるという希望がある。
それだけに、悪しき慣例の数々は残酷だ。