調査内容の精度や信頼は、被害者・遺族と学校・教委との間に、調査委の設置段階で信頼関係があるかどうかで違ってくるという。だが信頼関係が作れず対応が不適切だとして、文科省が強く指導したケースもある。
調査委をめぐっては、自治体間の格差が生じている。
「単独の市町村では対応が難しいことでしょう。そのため、近隣の市町村で調査委をつくり、同じメンバーの構成員で対応してもいいのでは? 研修を十分に行い、ノウハウや経験がある人材を増やさなければ」
子どもたちは話す動機に納得しなければ口を開かない
そんななか、遺族との信頼関係が構築でき、調査にも高い評価を受けているのが川崎市の調査委員会だ。
'10年6月7日、市内の自宅で中学3年生、篠原真矢さん(当時14)が自ら命を絶った。「いじめ防止対策推進法」ができる以前のことだ。これを受けて、いじめによる自殺が前例になかった川崎市で、初めて教育委員会の中で調査委が設置された。委員は、ほぼ学校関係者。現在の調査委とは様子がかなり異なる。
中心になって調査したのは、当時、市教委指導主事だった渡邉信二教諭。現在は小学校の教壇に立つ。
「当初は複数のメンバーが聞き取りましたが、調査のスタンスがブレました。誰かを定点にしてやろうとなり、僕がやることに」(渡邉教諭、以下同)
現在の調査委は、委員が聞き取る日を確定しているが、当時の調査委では、渡邉教諭が中学校に常駐し、生徒との関係を作った。
「子どもたちは、何のために話すのか、その動機に共感しないと話しません」
アドバイザーとして、自殺予防に尽力する精神科医の張賢徳さんも関わった。
「自殺の引き金になる出来事と、その原因となる出来事は別の場合があります。張さんから、いじめが深刻なケースほどずれている、と聞きました。気をつけて調査しないといけない」
子どもたちの聞き取りでは、自発的に語れるよう雰囲気づくりに注意した。
「自ら話を聞いてほしいと言ってくる生徒もいた。一方通行のQ&Aではなく、対話ができる職員が調査委にいないといけません」
遺族との信頼関係は、どのように築いたのか?
「四十九日までに報告書を作る予定でしたが、“無理です。もっと真矢くんのことを知りたい”と言ったのです。部屋を見せてもらい、好んでいた本や音楽を知って、そのうえで生徒に聞いたりしていました」
亡くなった子ども自体への関心が強くなったことで、調査の質が変わっていった。
「調査は客観性だけでは果たせません。学校に誰かひとりでも常駐できるかが重要。調査委には、亡くなった子どもの、人としての尊厳を守る責任があります」
取材・文/渋井哲也
ジャーナリスト。教育問題をはじめ自殺、いじめなど若者の生きづらさを中心に執筆。東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。近著に『命を救えなかった』(第三書館)