カナダで行われる児童虐待加害者の更生プログラム
カナダ・アルーバータ州の制度では、DVが通告されるとすぐに強制逮捕され、裁判所から接近禁止命令が出る。児童虐待が通告されると、児相から子どもの緊急保護命令が出る。10日以内に裁判が開かれ、状況によって更生プログラムを受けるよう命じられる。プログラムはDV加害更生プログラム、虐待をしてしまう父親のプログラム、両親が一緒に受けるペアレンティングのプログラムなど種類が豊富だ。更生プログラムを終えないと、児相に保護された子どもを返してもらえない場合もある。ホームサポートワーカーが派遣されて、家の中に危険なものはないか、食事がきちんと与えられているかを確認することもあるという。
その家庭にDVや虐待が起きていることがわかると、スピーディーに裁判まで進み、すぐに支援が入り、親たちは学ぶチャンスを与えられるのだ。「恥ずかしい自分」に向き合うには、早いほうがいい。
「何かしらの子どもへの虐待が見受けられた場合、私たちには報告義務があります。虐待を認知しながら報告義務を怠り、子どもがなんらかの障害を受けた場合、われわれは罪に問われます。しかしそれ以外は守秘義務が守られます。
地域では、事例検討会議が月に一度開かれ、機関連携します。地域の施設の人たちも4か月に1回集まって、地域のサービスが適切に運営されているかを確認します」
児童相談所の周辺に、多様な家族支援の仕組みが置かれているのだ。
仮に、目黒区の事件でこの制度が適応されていれば、虐待が最初に通告された2016年8月には裁判を受けていたことになる。野田市の事件では父の妻へのDVや心愛さんへの恫喝(どうかつ)が糸満市に伝えられた2017年7月だ。どちらも子どもが亡くなる1年半前だ。
怒りを抱えた、暴力的な親が放置されないということは重要だ。加害者の怒りは、社会から疎外されることで、先鋭化する。
アルバータ州のDV加害者プログラムの場合、まず、高野さんのNPOによる4〜5週間の個人面接に参加する。その後、12人ほどのグループセラピーに参加。16週間がワンクールだ。女性のグループもある。
「加害者」という枠が作られると、当事者と社会に絶縁が起きる
参加者たちは、このアクティビティで糾弾されるわけではない。
「暴力の結果、当事者の周りに『加害者』という枠が作られます。すると、当事者と社会との絶縁が起きます。本人も自分は加害者だからと友達関係から身を引く。社会から距離をとる。そこに人との関係の障害が生まれる。恥辱が、人と社会を引き離していきます。
このプログラムでは、参加者を『DV加害者』とは呼びません。『DV加害者』というアイデンティティーだけを強調することになるからです。しかし、DV加害があったことは明確にします。参加者の呼び方は『暴力・虐待をする男性(女性)』です。こうすることで、『暴力・虐待』はその人の選択であると強調し、だからこそ暴力・虐待を選択しない生き方も可能だと伝えます」
参加者は、善悪ではジャッジメントされない。
「恥ずかしさを生み出した体験や恥辱を引き出した感情が、どこからきているのかをゆっくりと語っていきます。
加害者が恥辱に向き合うのは、ものすごく痛い体験です。加害者プログラムに参加する人たちの多くが、幸せな家庭をもちたいと願っています。子どもが生まれた日はうれしかった。希望をもった。しかし、素直にポジティブにそう切望しながら、自分自身の手でそれを壊してしまった、というつらい恥の体験をしています。その結果、大切に思う子どもから怖がられるという状況に陥る。そんな自分を許せないと感じる。自己嫌悪もある。さらにその結果、強い怒りの感情が起きるのです」