暴力的に踏みにじった、少女の夢

 4月21日、新潟の専用劇場で行われた山口さんの卒業発表は、テレビ越しに見ていても本当に悲しいものでした。そのうえで私がずっと忘れられないのは、涙をこらえきれない彼女がそれでも必死に前を向き、客席で聞いているファンに一生懸命、笑顔を見せようとしていたことです。

 実際には笑顔を見せた瞬間も、マイクの下の彼女の手はずっと震えていました。きっと本当の山口真帆の心というのはあの手元にあって、手紙を読み終えるまでずっと、彼女は思いを打ち明ける恐怖や苦しさと懸命に闘っていたのだと思います。

 しかしその一方、スポットライトを浴びてステージに立っている「NGT48の山口真帆」は、どんなときも笑顔でいたいアイドルだったのだろうと、心から感じさせられました。

 そしてその笑顔の努力は、やはり全国トップクラスの人口減少地域である青森県で育っていた彼女が、かつて、ひとりのファンとしてAKB48の渡辺麻友に憧れた“希望の記憶”を持つ人だったからこそ、生みだされたものだったのだろうと、どこか思ってしまうのです。

 それを考えると今回のAKSの対応は、地域密着を掲げた少女たちを温かく受け入れた新潟県民、そしてアイドルに憧れて故郷を出たひとりの少女の夢を、暴力的と思えるほどの身勝手さで完全に踏みにじってしまったものであったと、改めて悔しさや憤りを抱きます。

 そして地方に生きる人々のさまざまな思いを傷つけてまで、NGT48のプロジェクトを守り抜こうとするその意義とは一体、何なのか。

 少なくとも現状を見る限り、もうそこに「地域密着」のかけらもないだろうな、と外野ながら同じ地方民の私は確かに感じています。


乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版しているほか、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181