ポスト池上を狙えるクイズ王

 そんな林の弟子みたいな存在が、クイズ王として世に出た伊沢拓司だ。東大及びナベプロ(所属事務所=ワタナベエンターテインメント)の先輩後輩でもあり、同じ予備校でバイトをしたこともある。最近は林の番組に「挑戦」的な構図で出演することも多い。

 こちらの強味は、若さならではの“勢い”。バラエティー番組『アイ・アム・冒険少年』(TBS系)の「脱出島」企画では、あばれる君鈴木奈々と無人島からの脱出を競ったりしている。この仕事を選ばない(?)貪欲な姿勢で、一気にポスト池上へと浮上するかもしれない。

 とはいえやはり、ポスト池上の一番手は櫻井だろう。番組共演を通して、その技術に接することができるのは大きい。じつはなんでも知っているかのように見える池上だが、その解説の何割かは専門家から仕入れたもので、彼のすごさはそれを噛み砕き、一般向けにわかりやすく「翻訳」できること。櫻井には、それを身近で学べるという有利さがある。

 また、池上も櫻井のことはある程度認めているのではないか。2年前、彼は報道番組に芸能人が出ることについて、こんな発言をした。

人気タレントが画面に出ていれば視聴率が稼げるだろうという、さもしい発想が透けて見える」「芸能人がニュースを伝えるのは国際的に見て日本ならではの奇観」「ニュースを伝えるのは現場取材を積み重ねたジャーナリスト。関心のなかった芸能人にカンペを読み上げさせるのは不思議な光景」(『文春オンライン』'18年6月6日配信)

 これには櫻井たちのことを言っているのではという声もあがったが、池上はこの時点でこうした不定期報道番組をふたりで何度もやっていた。そんなパートナーのことをあからさまに批判するとは考えにくい。つまり、彼は'06年から『news zero』でキャスターやインタビュアーをやってきた櫻井の実績などを考慮し、ジャーナリストの顔も持つ芸能人として評価していると考えられる。

 ちなみに、ふたりは同じ慶應大学経済学部の先輩後輩。櫻井は嵐としてデビューした数か月後に入学し、芸能活動と両立しながら4年間で卒業した。試験の前には楽屋でも常に勉強をしていたという。

 その甲斐あって、ほかの芸能人にはない政財界との人脈も持つ。父親からして、総務省のトップに上り詰めた元・高級官僚だ。池上に一目置かれてもおかしくない立場なのである。

 米国の同時多発テロ事件('01年)を機に、報道の仕事をやりたいと思ったという櫻井。その後、雑誌でこんな発言もしていた。

コンサートの準備をしつつ、総選挙の日程が気になっちゃうアイドルがいてもいいんじゃない?」(『Hanako』'09年9月24日号)

 4日には『news zero』にもリモート出演。こちらでは、クラスター対策班のツイッターを立ち上げた女性を取材していた。コロナショックで混乱する芸能界にあっても「報道の櫻井」は前途洋々といえそうだ。

PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。