欲しいから盗むのではなく、盗むこと自体が目的と化していた。石井さんは万引き行為に依存していく。
「今から考えれば、心の居場所がないという“心のホームレス化”状態にあったから、万引きしていたんじゃないかと思います」
警察庁によると、万引きは、過去10年、20歳未満の犯罪全体の50%前後を占めており、少年非行のなかでは最も比率が高い。警視庁の最新統計(’19年)では、万引きで検挙・摘発された20歳未満のうち、小学生の比率が3割を超えて最多。’17年に中学生を逆転して以来、高止まりの状況にある。
そんな中で、警視庁は’19年10月、小学生の万引きに注目した「万引きに関する調査研究報告書」(以下、万引き調査)を発表した。それによると、盗んだ品物の内訳は「食料品」が半数で、次点が「玩具」。この2つが全体の約7割を占めている。万引きした場所は、小学生は「コンビニ」が半数で最多だ。警視庁では重要犯罪の入り口、「ゲートウェイ犯罪」になりやすいと見ており、注意喚起している。
貧困や寂しさが万引きに走らせる
子どもの万引きには地域ごとの特徴もある。21年間、大手スーパーやドラッグストア、書店などで「万引きGメン」をしている伊東ゆうさんは、こう話す。
「被害が深刻な地域では、貧困層やひとり親家庭の子どもの万引きが目につきます。何かしらの理由で両親ではなく祖父母と暮らしていたり、児童養護施設で暮らす子どもたちも少なくありません」
伊東さんは約80点もの商品を万引きした小学4年生のことが忘れられない。8人きょうだいの末っ子の男児。両親は働いていて、お小遣いはなく、おやつも用意されておらず、文房具も買えない。盗んだものはきょうだいに配っていた。
「そうした子どもたちは、話を聞くと、うれしそうに話したり、泣きながら自分の状況を訴えたりします。貧しさのほか、寂寥感があったり、かまってほしかったという理由があったりするんです」
ただし、警視庁統計に表れている「小学生の万引きの比率が高い」点は実感がないとGメンの経験から指摘する。
「万引きで多いのは圧倒的に高齢者です。地域によっては外国人も目立つ。小学生が多い地域もありますが、中高生のほうが多い印象です。中高生は巧妙で、逃走ルートや、捕まったときの言い訳も考えていたりします」