ネグレクトに駆り立てた理由はなんだったのか。
Tは群馬県内の出身で両親は幼いころに離婚。祖母と母と暮らしていた。高校卒業後は職や住まいを転々としていたという。
「お母さんは身体が弱い人でしたが、仕事をかけもちしてTさんのことを育てていました。お母さんが留守の間はおばあちゃんが面倒をみていて、とても可愛がられていました。親から虐待されていたとは聞いたことがありません」(Tの家族を知る男性)
中学時代を知る女性は、
「サッカー部ではゴールキーパー。目立つタイプではなかったけど面倒見もいい穏やかな子でしたよ」
と驚きを隠さなかった。
見殺しにして罰金10万円は軽い
前橋区検は7月28日Tを、動物愛護法違反の疑いで前橋簡易裁判所にて略式起訴。同簡裁は罰金10万円の略式命令を出した。
「聞いたときは、怒りよりもあまりの刑の軽さに笑ってしまいました。あれだけのことをしたのにウソでしょって。この判決にはとうてい納得いかないです。Tには法廷で真実を明らかにしてほしかったんですが、叶いませんでした。これが現実なんだなと思いましたが、これでいいのでしょうか。この事実は社会にも問いかけないといけない」
飯田さんは打ちのめされた苦しい思いを打ち明けた。
6月1日より改正動物愛護法が施行、動物の殺傷や虐待の罰則が引き上げられた。
殺傷に対する罰則は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に強化。ネグレクトや遺棄などの虐待には懲役刑が追加され、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」となった。
動物愛護問題に詳しい細川敦史弁護士は、
「猫たちの部屋の扉を打ちつけて出られなくしていたところは未必の故意だったとも考えられます。ですが、判決は残念な結果でした」
と肩を落とす。さらに「想像の範囲ですが」と前置きをしたうえで、
「処分は告発した動物愛護法44条1項でなく同2項(給餌・給水をしないこと)を前提にしているのかなと思いました。それだと本案は法改正前の犯行なので、罰金100万円が上限で、そこから罰金額が決められます。ただ、10万円は軽い。それでも20年前はどんな虐待をしても罰金は3万円。当時と比べれば罰は重くなりました」
動物愛護への機運は高まるが、世論だけでは司法の壁は変えられないという。
「まずは法律を変えることです。そこには世論の高まりが重要でしょう。法律を変えることで処分や処罰、裁判の判決の中身に影響を与えると思います」(細川弁護士)