読者からは、「同じ悩みを抱えてきた。よくぞ書いてくれた」「複雑な母娘関係があると知り、介護現場で自分の価値観を押しつけないようにしたい」などの声が届いている。
「娘にとって母は、多かれ少なかれ“重い”ものですが、人によっては命や人生を脅かされるほどに重い場合があることを知ってほしい。そして、拙著で紹介した当事者の経験や専門家の知恵が、孤立無援で苦しむ当事者の方々に届けば、と願っています」
番外編:心理カウンセラーはこう語る
「母から虐待や支配を受けてきた娘は、母が要介護の状態になったときに、小突くなどの復讐をするケースも見られます」
と言うのは、心理カウンセラーの石原加受子さんだ。
「そんな場面を家族や介護士の人が見たら、娘に向かって『やめなさい』と注意するでしょう。確かに人道的ではありませんが、私は『あなたは今まで我慢してきたのよね。小突きたくなるのも無理ないわね』と伝えます。でも復讐しながら介護をするのは疲れるので、介護をしないという選択をしたり、介護に対してお金をもらうといった割り切り方ができないか、アドバイスしています」
母娘の関係が悪いのは、親の夫婦関係に問題がある場合が多いのも特徴だ。
「夫に頼れないから、娘にしがみつき、病気を盾にして娘に面倒をみさせようとする母もいます。しかし、世間がどう言おうが、母の介護で、娘が自分の生活を犠牲にしたり、大きな負担を感じる必要はまったくないんです。母が困っているのは、娘の責任ではなく、夫婦の問題であり、母自身の問題です。『私の問題ではない』と母と心の距離を置くだけでも、罪悪感が減るでしょう。
なかには母を諭して変えようとする人がいますが、それは母に積極的に関わろうとしていることにほかなりません。介護に限らず、母からの要求に対して、できないこと、負担に思うことを無理に行わず、少しずつノーと言って、母に自分ひとりで頑張ってもらう状況をつくることが大切です」
(取材・文/紀和静)
《PROFILE》
寺田和代(てらだ・かずよ) ◎立命館大学卒業後、会社員を経てフリーライター・エディター。女性誌、文芸誌、総合誌でのインタビュー・執筆、単行本の企画・制作に携わる一方、2000年に社会福祉士資格を取得し、高齢者介護・医療・暮らしの分野でも活動。
石原加受子(いしはら・かずこ) ◎心理カウンセラー。「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。独自の心理学で、問題解決、生き方、対人関係、親子関係などのセミナー、グループ・ワーク、カウンセリングを25年以上続けている。著書多数。最新刊は『感情はコントロールしなくていい』(日本実業出版社)。