いじめという“二次被害”

 このような出来事から、友梨さんは娘の異変やストレスの原因などをまとめ、「事実報告書」を学校に提出。さらに友梨さんはある市議会議員にも現状を伝えた。

 市議会では紗季さんの学校について問題があるとし、市教委を問いただした。すると指導課長は、体育の授業での配慮について、「校庭でマスクを外し、十分な呼吸量で授業をすることになっています。準備運動後、運動と運動の間、振り返りの間、一回だけでなく、複数回の水分補給をするように教員が声をかけるようにしています」と述べたという。

 また、不適切な指導がなされた場合の対応については「まずは事実かどうかを確認する必要がある。学校を訪問し、授業を観察し、聞き取りをします。その結果、不適切な指導を確認できた場合、指導と助言をします。その後の変化についても、校長から報告をさせて、必要な場合は、再度、指導をします」(指導課長)とのことだった。

 筆者は直接、市議会で問題提議をした市議に話を聞いてみた。

「事前に質問内容は伝えており、指導課長は一般的ではありましたが、ギリギリの答弁をしてくれたと思っています。議員としては、直接、教育現場には介入できませんが、お子さんが心配です。早く課題を解決し、学校に復帰できるようにしたい」

 しかし、紗季さんが早く学校へ行けるよう市議会も市教委も最善を尽くす中、“二次被害”は起きてしまった。

 10月中旬、紗季さんの家の郵便ポストの中に、「コンビニにいたでしょ?さぼりなの?」「どうしてズル休みするの?」「勉強できないから来ないの?」などの、メモが投函されていた。誰が書いたかは不明だが、友梨さんは「いじめではないか」と判断し、学校に報告。市教委も把握している。

 市教委に取材をすると、「『事実報告書』は受け取っています」としながらも、解釈の違いがあるのでは、という。例えば、

「挙手の回数については、子どもたちとの話し合いの中でできた、と聞いています」とし、認識が食い違う部分もある。しかし、「親御さんとは必要に応じて話し合いを重ねていきます」と述べた。また学校も同様に「市教委と連携をとりながら話し合いを進めていきます」と答えた。

 両者の言い分が食い違っている部分があるが、まずは事実の把握が大切だ。両者での話し合いと並行しながら、何よりも子どもの学習面と心のケアが重要。

 全てをコロナのせいにはできないが、現代の子どもたちの心はさまざまな悩みを抱え、大人たちにSOSを出している。未来のある子どもを支えていくために、大人がすべきこととはーー。学校、地域、市議会、そして親のその後に注目したい。


渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)ほか著書多数。