子ども向けから大人向けアニメへ
アニソン市場が音楽業界で巨大化したこと、またアニメやアニソンが幅広い層に支持されていった背景とは。
「最も大きな理由は、'90年代末ごろから日本におけるアニメの放送枠のメインが“深夜帯”に移ったこと。これにより子ども向けアニメから青年向け、大人向けアニメへとシフトしました。その結果、一般的なアーティストや人気バンドなどがアニメ主題歌を多数手がけるようになりました。
このきっかけとなった出来事は、『新世紀エヴァンゲリオン』の深夜再放送によるブレイクです。'95年にテレビシリーズが初めてオンエアされた当時は、夕方に放送されていた『エヴァ』ですが、'97年の劇場版公開に向けて深夜に再放送を行ったところ、哲学的かつ難解な内容、残酷な展開、濡れ場シーンなども含んだ『エヴァ』という作品性が、すでにアニメを卒業していた大学生や社会人を中心に口コミで話題になり、劇場公開時に社会現象のようになっていきます」
この結果“深夜に青年向け~大人向けのアニメを放送する”という流れが生まれ、2000年代初頭からその流れは加速し、日本で制作されるアニメ作品のメイン層は青年~大人層へと推移していった。
「アニメは'90年代くらいまでは、中学生になるころまでに卒業する趣味というイメージでしたが、青年向け~大人向けのアニメが主流となったことで“卒業する必要のない趣味”になったことも大きいと思います。大人も堂々と楽しめるアニメ作品が多くなったこと、そして大人向けアニメの先進国である日本が海外から注目されていったことなどが、市民権を得ていくことに繋がっていきました。
全世界を見渡しても、年間200本近い大人向けアニメをテレビで放送している国は日本だけで、海外は子ども向けが中心です。現在、大人向けアニメは、日本から欧米や中国など全世界に向けて供給されています」
今年の紅白歌合戦は、『鬼滅の刃』のブームにより、単純にLiSAが楽曲を披露するだけでなく、演出面でも“鬼滅色”が濃くなるという。
「紅白歌合戦は、その年の担当プロデューサーが何を尊重するかによって出場アーティストの傾向も多少は変わると思います。紅白歌合戦に数多くスタッフとして参加し、'05年と'08年には番組プロデューサーを務めた石原真さんは、当時からすでに東京ドームでライブをやっていた水樹奈々さんを、声優アーティストとして初めて紅白に出すことに尽力されていました。
とはいえ、国民から徴収している受信料で番組を作り、予算も国会で審議されているNHKなので、基本的には“できるだけ多くの国民から文句が出ない出演者”選びに腐心していると思われます。それだけに年々、アニソンを無視できない状況になってきていると言えるかもしれませんね」