避けては通れない
前事務所と“局”の関係
3人が地上波に出られなかった背景には、やはり局側のジャニーズ事務所への気遣いなどがある。同事務所の協力がないと、番組づくりは難しいからだ。
ただし、それは同事務所に限った話ではない。局側は相手が大きな事務所なら、どこに対しても気遣う。その事務所が大きければ大きいほど、気遣いの度合いは大きくなる。相手側への配慮というより、自分たちが視聴率の取れる番組をつくるためと言っていい。
I氏もそんな事情は熟知しているから、同事務所との関係が薄いところから攻めてきた。例えば、3人の地上波復帰番組は2018年のRKB毎日放送(福岡)のバラエティー番組『略してブラリク』だった。ローカル番組だ。
同局はTBS系列の有力局であるものの、地方局なのでジャニーズ事務所との関係はないに等しい。半面、I氏は同局幹部と太いパイプがあったことから、番組がつくられた。
「なんだ、ローカル番組か」と言うなかれ。ここでもI氏は手腕を発揮した。メルカリのサイトを使い、全国どこでも見られるようにした。その際にはメルカリの会員登録が必要だったので、同社にとっても悪い話ではなかった。
草なぎも地上波ドラマへの復帰が決まっている。ヒット中の映画『ミッドナイトスワン』ではトランスジェンダーを熱演し、来年2月からはNHK新大河ドラマ『青天を衝け』に出演し、徳川慶喜に扮する。
NHKのドラマ部門もジャニーズ事務所との関わりが比較的薄い。また、民放の場合、音楽番組やバラエティー番組の制作部門とドラマ部門の関係が緊密だが、NHKは音楽番組などを扱うエンターテインメント番組部とドラマ番組部が一線を画している。やはりI氏としては交渉しやすかったはずだ。
I氏は『ミッドナイトスワン』を配給したキノフィルムズの木下直哉社長(55)の信頼も厚い。木下工務店など木下グループの総帥でもある木下社長は映画事業に熱心で、最近では黒木瞳(60)が監督を務めた『十二単衣を着た悪魔』を制作・配給した。映画界の一大勢力になりつつある。
稲垣が2019年に主演した映画『半世界』も同社の配給。3人の映画が、まるで定期的のように上映される背景にはI氏の人脈の力もあるのだ。
ほかにもI氏が笹川陽平・日本財団会長(81)に高く買われているのは有名な話だが、ソフトバンクグループの孫正義代表(63)からも高く評価されている。I氏の財界人からの信望が、3人のCMの多さにもつながっている。
稲垣は二階堂ふみ(26)とダブル主演した映画『ばるぼら』がヒット中。異常性欲に悩まされる小説家・美倉洋介(稲垣)の成功と破滅の物語だ。クールな面とナイーブな面を併せ持つ稲垣のよさが生かされている。
稲垣は今年9月からNHKのEテレで『クラシック音楽館』のアンバサダーも務めている。やはりジャニーズ事務所との関係が薄いことは書くまでもない。
おそらく今後も地上波の大半でジャニーズ事務所への気遣いは続くが、一方で3人の出演機会も増えていくだろう。I氏は今後もさまざまな展開を考えているはずだ。
「3人に仕事がなかったのはI氏が煙たがられたから」
そんなプロはいないし、3人の今日があるのはI氏の力にほかならない。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立