アピールはせずにやることはやる「男気」
チーフプロデューサーの磯山氏は放送開始前、次のように語っていた。
「このドラマは、長瀬くんと長期にわたって相談してきた企画であり、彼本人の思いもたくさん詰まっています」(TBS公式リリースより)
恋愛の描き方が淡泊なところにもそれは現れている。長瀬はTBS系『ごめん、愛してる』(2017年)などへの出演歴はあるものの、恋愛ドラマを避けてきた。
「恋愛に左右される男なんてだせぇと思っていた」(読売新聞朝刊、2017年7月23日付)
『ラブとエロス』(1998年、同局)から『ごめん――』まで実に20年も恋愛ドラマに出演しなかった。長瀬ファン、ドラマファンの間ではよく知られた話だ。
『俺の家の話』では8話で寿三郎の介護ヘルパー・さくら(戸田恵梨香)の求愛を受け止め、長瀬ファンやドラマファンを驚かせたが、9話と10話で見事に肩すかしを食らわせ、長瀬ドラマの規定路線に。最終回ではキスシーンがあるようだが、恋愛の描写はやはり淡泊なものになるだろう。
「よく男性から声をかけてもらう。うれしいですよね」(サンケイスポーツ、2013年10月5日付)
長瀬の女性人気は絶大だが、本人は男性から惚れられる男を目指してきたのだ。
長瀬の考えは第6話にも表れていた。家族旅行として福島県いわき市のハワイアンズへ訪れた。長瀬にとって同県は約束の地である。
東日本大震災後、TOKIOのメンバーたちと県の農林水産物応援企画「ふくしまプライド。」のCM、ポスターに登場してきた。完全にノーギャラだった。
その上、福島は西田が愛してやまない故郷でもある。東日本大震災10年目に合わせてロケに臨んだのは間違いない。
そもそも近年のホームドラマでロケを行ってまで家族旅行を描く作品など皆無なのである。だが、これも引退作品であることをPRしないのと同じく、わざわざアピールしていない。長瀬らしい。
さて、ジャニーズ事務所を離れたあとの長瀬はどうなるのか。昨年7月に本人が「芸能界から次の場所へ向かいたい」とファンクラブ会員に向かって宣言したとおり、転身して作詞・作曲などクリエイター活動を行う。
ジャニーズ事務所もそう言っているのだから、これは動かない。ほかの事務所に移るという話もない。なにより、長瀬のこれまでの半生は有言実行なのだ。TOKIOのメンバーと1年も話し合って決めたことでもある。
長瀬の音楽的才能は高く買われている。TOKIOの作品のうち、『リリック』『東京ドライブ』など20曲以上の作詞作曲を手掛けた。クリエイターとしても成功するだろう。
ただし、まだ若い。TOKIOはジャニーズ事務所の藤島ジュリー社長(54)が初めて直接手掛けたバンドで、長瀬との関係は良好だから、その気になったら長瀬の事務所復帰も他事務所への所属も簡単だろう。
まずはクリエイター・長瀬の成功を祈るばかりだ。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立