セリフはシンプルでも表情は雄弁
現在の赤楚が業界内で評価されているのは、主に丁寧な役作りと、繊細な感情表現の2点。
たとえば『彼女はキレイだった』第7話では、赤楚が演じる樋口拓也が想いを寄せる佐藤愛に「俺はジャクソン(愛)が幸せになってくれたら何でもいいんだけどさ」と優しく語りかけるシーンがあった。
さらに想いが届かないことを察すると、「俺、ジャクソン(愛)にとって最高の友達を目指す」と気丈に話し、愛の恋を健気に後押し。しかしその後、「やっぱ友達なんて無理だ。俺にもチャンスくれないか。俺たちなら絶対楽しい」と、ついに想いがあふれてしまった。
いずれもセリフはシンプルなものだが、演じる赤楚の表情は実に雄弁。視聴者に樋口が言葉にできなかった切なさを感じさせていた。このように赤楚はセリフの内容や量にかかわらず全身で感情表現することに長けていて、それは丁寧な役作りがベースとなっている。
序盤から「樋口が笑顔を見せるだけで切ない気持ちにさせられる」という声がネット上にあがっていたが、それこそが赤楚の魅力であり、実力と言ってもいいだろう。
赤楚はイケメンだけにもちろんビジュアルの人気もあるが、それ以上に「彼の演技や演じる役が好き」という人のほうが多い。演技や役が愛されるからこそ彼のファンはティーンから50代あたりまで年齢の幅が広く、しかも民放各局の重点ターゲット層を網羅している。
一方、赤楚と共演している中島健人のような若手アイドルたちは、どうしてもファン層が偏りがちでアンチが増えやすい。本人に実力があり、素晴らしい演技を見せたとしても正当な評価を受けづらく、気の毒なところがある。
実力と人気を併せ持つ事務所の先輩たち
赤楚は今年2月、中国最大のSNS『WEIBO(微博)』が影響力を持つ日本人を表彰する「WEIBO Account Festival in Tokyo 2020」で話題俳優賞を受賞。
『チェリまほ』はネット配信による海外のファンも多く、赤楚は世界各国から支持を受けている。このところ各局がビジネスとして重視しはじめている配信数も取れるのだから、今の赤楚にオファーしない手はないのだ。
赤楚の所属事務所は小栗旬を筆頭に、田中圭、綾野剛、間宮祥太朗、坂口健太郎らを擁するトライストーン・エンタテイメント。人気と実力を併せ持つ先輩俳優がそろう環境であり、相乗効果でオファーが増えやすい状況にある。
さらに昨年から民放各局でラブストーリーの需要が増し、王道の純愛モノから、笑いを誘うラブコメまで、そつなく演じられる赤楚にとっては、追い風が吹いていると言っていいだろう。「以前から高かった業界内での評価に、視聴者の支持が追いついた」という過程を踏まえると、朝ドラや大河ドラマへの出演も含め、まだまだ快進撃は続いていくはずだ。
木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。