一方、ジュリーさんの現在はどうだろう。この人も「嫌味なところがなく、気配りもあるお嬢様」(違う芸能プロの幹部)として知られ、悪評は聞かない。一般人に近い感覚の持ち主と言われる。半面、それがネックになっているところがあるようだ。
「自分が手掛けたTOKIOの長瀬智也の脱退と退所を止められず、やはり自ら育てた嵐の活動休止も避けられなかったので、いまだ責任を痛感しているようだ。けれど、そんなことは気にしたって仕方がない。メリーさんなら、去る者は追わず、ほかのタレントの売り出しに心血を注ぐはず」(前出・芸能プロ幹部)
アメとムチを使い分けたメリー氏
事実、メリーさんはバイタリティーに溢れ、時には非情になれる人だった。メリーさんの剛腕なくして帝国は築けなかった。
テレビ各局との太いパイプを作り上げたのもメリーさん。各局の首脳を東京都港区内の自宅マンションに招き、高級料理を食べながら、芸能界の話から政治問題についてまで語り合った。
ちなみに料理はメリーさんがつくるわけではない。高級レストランのシェフを自宅に招いた。メリーさん宅のダイニングキッチンはまるで高級レストランのようだった。2006年、嵐・櫻井翔(39)の『news zero』(日本テレビ)のキャスター就任もこの場で内定した。
メリーさんは現場スタッフへも攻勢を掛けた。それは世間の感覚とは掛け離れたものだった。
「メリーさんから20万円以上する高級スーツのお仕立て券が届いた。芸能プロから中元、歳暮が届くことはよくあるが、桁違いだった」(民放のジャニーズ番組の担当者)
シビアな面もあった。櫻井をキャスターとして送り込んだのを始め、日本テレビとの関係は各局の中で最も良好だったが、何度頼まれても寵愛した木村拓哉(48)の主演ドラマはつくらせなかった。同局のドラマの制作能力に疑問を抱いていたからだ。
アメとムチを使い分けたメリーさんを「芸能界屈指の政治家」と呼ぶ向きもあった。次はジュリーさんと滝沢氏がその役割を担わなくてはならない。繰り返すが、補佐役の存在は不可欠だろう。
ただし、補佐役を付けるのは簡単なことではない。感情が絡むからだ。
ジャニーさんにはSMAPのチーフマネージャーだったIさん(63)という補佐役もいて、高く評価していたが、メリーさんは早くからIさんを好まなかった。
「ジャニーさんはIさんがジュリーさんを支えてくれるのが理想と思っていたし、外部の人間もそう見ていたが、感情面がそれを阻んだ」(同・芸能プロ幹部)
この軋轢が5年前のSMAP解散に発展したのは知られているとおりだ。補佐役の不在は課題と見られるが、その選定を誤ると、新たな火種となる。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立