殺意に怯えて……夫からも逃げ出して
「優しいと思っていた夫のDVを、最初のころは信じられませんでした。仕事の痛手とショックが大きかったから、と考えるようにしていました。次第に夫の暴力が加速していったんです。
額にこぶができ、頬には殴打のあざ。顔も腫れるなど全治1か月以上のケガをしてから、殺されるのではないかという恐怖でいっぱいに。すぐに夫の母親に訴えると、驚愕(きょうがく)の事実を知らされたんです」
前妻も夫のDVが原因で救急搬送されたという。反省した夫は仕事の傍ら更生施設に通ってカウンセリングを受けていたが、前妻は退院すると離婚届を置いて出ていった。
「夫の母から“更生させるから離婚しないで”と頼まれましたが、一度手を上げられたことで、トラウマのようになって……。弁護士に相談しようとした矢先に、またDV。そこで父親に相談しました」
別居をすすめた父親が当面の生活費を渡してくれたため、美穂さんは短期賃貸マンションに引っ越す。ところが父親経由で母親に夫のDVが伝わると、母親は予期せぬ行動に出たのだ。
「母親は夫をだまして、私の死亡保険の受け取りを夫から自分に変更したんです。どういう手段を使ったのか、わかりません。母は私の死を望んでいるのかもと思うと、震えが止まりませんでした」
絶対に死んではいけないと思った美穂さん。そのためには夫からも毒親からも逃げると決めたという。
「1年後にやっと離婚が成立しました。母親とも縁を切りたかったのですが、母に対して冷淡な態度をとってきた父が一変したんです」
妻が“毒親”となった原因が自分にあると思ったのかもしれない。ほとんど家事をやらない母に文句も言わず、父親は、食事を作って母に食べさせるようになったという。
「そんな父の愛情に感動して、母との絶縁を思いとどまりました」
3年後に再婚した美穂さん。優しい夫に愛されて幸せを感じたころに、毒親のことをネットで調べると『自己愛性人格障害』という言葉が目に留まった。精神科医の町沢静夫氏の著書にあった「人を自由に操作し、自分が所有者であるかのように振る舞う」という一文に、母親のパーソナリティーと重なったという。
「母の言動の原因がわかってからは、遠慮しないで口答えをしたり、時には大ゲンカをしました。そんなケンカの最中に母が“自分の味方が欲しかった”と口走ったんです。認められたくて、愛されたくて、結果的に毒親になってしまった、屈折した心理状態が少し理解できるようになりました」
美穂さんが再婚したころから、正月は美穂さん夫婦や弟の家族が集まり、父が作るおせちを囲むようになった。すると母は落ち着きを取り戻していったという。
「時々毒親のスイッチが入ると私がストップをかけます。そんな母を容認できるようになったのは、私自身が幸せになれたからなのだと思います」
〈取材・文/夏目かをる〉