コロナでのめり込んだマイクロ農業

 マイクロ農業にのめり込んだきっかけは、2020年からのコロナ禍だった。

「仕事が激減しました。講演はすべてなくなるし、ラジオの生放送に対応するために週に2〜3日、短時間だけ東京に出かけるほかは、ずっと埼玉の家にいる。とはいえ、暇を持て余しているわけではまったくない。晴れた日は畑に出て、雨の日は博物館で展示物の整理をしていました」

 そんな日々を過ごしているうちに、森永さんは「ひとり社会実験」をしてみようと思い立つ。

「日本の年金制度は、現役世代が高齢者を支える仕組み。ところが保険料を払う現役世代が減っているため、今後、年金がどんどん減っていきます。厚労省によると現在、夫婦2人が受け取る厚生年金は月21万円。それが30年後には最悪13万円まで減ります。国民年金は現在、月6万5000円弱ですが、3万9000円まで減らされる。

 “老後2000万円”が話題になったけれど、こうした状況のなかで貯金を持ってない人はどうやって生きていけばいいのか。それを自分自身で実験しようと思ったんです」

 いかにも経済アナリストらしい挑戦である。

 人間が生活していくうえでの基本の1つ、住居費は森永さんの場合、30年以上前に購入した自宅のローンが完済しているので、一切かからない。

「ざっくり言うと、都心の住宅地は坪単価500万円。でも、うちの地元なら50万円、(埼玉県)ときがわ町だと5万円なんですよ。なのに東京への電車の所要時間って、30分くらいしか違わない」

 と、トカイナカの利点を強調する。自然豊かな環境を活かし、自給自足ができればなおいい。

「食べ物を自分で作ると支出が激減します。もちろん肉や魚などは買いますが、うちは米を買う必要がない。九州の佐賀県が妻の実家なんで、米とお茶は送ってもらえるんです」

 電気は、自宅とは別の場所に設置した太陽光発電でまかなっている。

「ひとり社会実験を始めたもう1つの理由は、このままだと温暖化で地球が壊れてしまうから。地球を壊さない生き方を考えて、太陽光発電を選択しました」

 そうして取り組んだ実験の結果は、「都心じゃ厳しいけれど、トカイナカであればわけない」と森永さん。

「家賃はかからないし食費が半分くらいになって、電気代もかからない。トカイナカなら、夫婦2人が月13万円の年金で十分暮らしていけます」

 マイクロ農業に加えて、トカイナカでの暮らしを支える重要な要素が、コロナ禍で広まったリモートワークだ。

「取材はほぼリモートで受けていますし、ラジオは自宅で録音したり、電話出演したりする番組もある。いまやほとんどの仕事がリモートで事足りています」

 森永さんのシンクタンク時代の友人は先日、群馬県の安中榛名に転居したという。

「聞けば、仕事はリモートが多く、安中榛名から東京駅まで新幹線で1時間だと。うちより近い(笑)。新幹線代もそれほどの回数は乗らないから、たいしたことはないと言っていました。何がなんでも都心に住まなきゃいけない時代ではなくなった。世の中の構造が様変わりしたんです」