被害者家族になった今、伝えたいこと
そう目を細めて静かに話すユキさんの姿は、一見するとどこにでもいそうな、ごく普通の女性だ。そんな彼女には、訴えたいことがあるという。
「近年ではSNSの誹謗中傷によって命を絶つ人も出ています。私も事件当初や前回の記事の反応をSNSで目にし、かなり気持ちが沈みました。夫がヤクザですから、後ろ指を刺されるのはしょうがないのもわかっています。でも、だからといって罵詈雑言を浴びせていい理由にはならないと思うんです」
2020年には、恋愛リアリティー番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが、誹謗中傷に悩んだ末に命を絶った。また、2019年に池袋で起きた暴走事故では、被害者の遺族をSNSで侮辱したなどの罪で20代の男が逮捕され、今年1月には有罪判決が下されている。
「ヤクザの妻である私ですらそうとう応えましたから、一般の人が誹謗中傷のターゲットになったときは、精神的に追い詰められてしまうはずです。例えば飲食店でも、お店の中で暴れてモノを壊す人がいるでしょう。
それによって廃業してしまうお店もある。私は、人の人生もそれと同じだと思うんです。人生というお店が、誹謗中傷によって休業や廃業に追い込まれてしまっている。“人生妨害”なんですよ」
ただ、こんなことも話す。
「悪口を言うのが楽しいと思っているのでしょうから、その人たちを否定したくはありません。私は“そういう人もいるんだ”と、受け入れていくことに決めました。とはいえ、何でも表現してもいいわけじゃない。それだけは考えてほしいと訴え続けていこうと思います」
そして、最後にこう付け加える。
「被害者遺族となって、初めてわかったことがたくさんありました。被害者なのに病院から亡くなった夫の治療費を請求されるとか、裁判のときに遺族は子どもを行政の施設に預ける制度がないとか……。
今も“パパに会いたい”と話す子どもに、何て言葉をかければいいのかわからない。これらは誰も教えてくれません。誰もが被害者そして被害者遺族になりえる可能性がある。だからこそ、こうした現実は多くの人に知ってほしい」
その一方、佐々木被告は山中組長から金銭を要求する“脅し”や“タカり”があったため、それを終わらせようと犯行に及んだと供述している。つまり被害者と加害者の立場は、事件が起きる前まで逆転していた可能性がある。