ゆりやんがAGTに出場してから4年がたち、あれから世の中も大きく変わった。タブーが増えた今、コミュ力も使い方を間違えると逆効果になってしまうこともある。彼女は'24年10月にロサンゼルスを拠点に海外進出すると明らかにしているが、そこでどんな路線を打ち出すか。
海外で言わないほうが良い言葉とは
渡辺直美も海外進出組。かねて世界を視野に活動を続けてきたが、'21年春、日本の全レギュラー番組に終止符を打ち、ニューヨークへ本格的に拠点を移した。
渡辺が昨年新たにスタートしたのが『Naomi Takes America』。オール英語配信のポッドキャスト番組で、「英語が喋れないのに英語の番組を始めました(笑)」と自身のインスタで報告している。廣津留さんは、英語を話せなくても英語の番組を始めてしまう渡辺の「人と仲良くなるコミュニケーション英語」力は素晴らしい、と言う。
できないのは決して「恥ずかしい」ではなく、チャレンジは「自己成長」だという発想は、日本人のロールモデルになるのではないか。ただし、一般の人は、
「海外ではI can't speak Englishは言わないほうがいい」
日本人が口にしがちなセリフではあるものの、誤解が生じる可能性があると話す。
「日本人は謙遜しているつもりでも、海外では英語で話す気がない、なじむ気がないという意味に受け止められてしまうこともある」
日本人と欧米人では言語の思考回路がそもそも違う。空気を読む、自分を卑下する、といった日本人の精神性は通用しない。人前に立つ場合はなおさらのこと、第一声で伝えたいテーマを明確に示し、聴衆の関心を惹きつける必要がある。
「ロゴス(論理)、パトス(情熱)、エトス(信頼)。これが英語圏におけるスピーチの三原則。欧米では小学生でも知るスピーチの基本で、私の英語教室でも子どもたちのサマースクールに取り入れています」
序論でまずテーマを簡潔に言い切り、本論で情熱を持って具体例を羅列し、結論でもう一度テーマを繰り返すことで首尾一貫して信頼を得る。そのロジックをクリアしたのが安村で、BGTでの勝因は何よりそこにあるという。
「ロゴス(論理)=私はこれから裸のポーズをしてみなさんを笑わせます、パトス(情熱)=私は今裸のポーズでみなさんを笑わせています、エトス(信頼)=パンツをはいているよと安心させてみなさんを笑わせました。安村さんは三原則にぴたりと合致します」
ただ漫然と芸を見せるのではなく、三原則に則ることで、安村はロジカルに観衆を惹きつけた。そこに英語のコミュ力が加わり、世界にパフォーマンスが受け入れられた。
安村のインスタにはイタリアをはじめ海外からオファーが続々舞い込んでいるといい、この先さらに世界が広がる可能性もある。海外の檜舞台で箔がつき、再ブレイクを叶えた形だ。安村に続けと、今後海外進出をもくろむ芸人が出てきそうだが─。
「おそらく彼らが“海外進出”を考える最後の世代。今の時代は海を越えるという発想自体がない。そこは昭和の日本人が越えていかなければいけない壁かもしれません」
飛行機に延々と乗って海を越えずとも、ネットを開けばそこはもう海外だ。SNSの舞台は世界で、日本にいながらにして世界的ブレイクを果たすこともある。
その好例がピコ太郎の「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」。ピコ太郎こと古坂大魔王がYouTubeで動画を公開したのは'16年のこと。ジャスティン・ビーバーがお気に入りと紹介し、そこから一気に火が付いた。
再生回数は実に2億回を突破。海外で注目された日本人芸人の先駆けでもある。しかし「海外の人はこれがどこの国の人だという意識で見ていない。彼らにとって地球は丸く見えている」と廣津留さんが言うとおり、“海外進出”と騒いだのは日本だけ。