社長が誰かよりも、今回考えるべきことは、テレビ局と芸能事務所の距離だと思います。「週刊新潮」によると、「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)のプロデューサーが、他事務所の男性アイドルを同番組に出演させるか迷っていると、喜多川氏は「出したらいいじゃない、ただ、うちのタレントとかぶるから、うちは出さないほうがいいね」と番組からの撤退をほのめかされたといいます。誰を番組に出すかを決めるのはテレビ局側のはずなのに、なぜ事務所にお伺いを立てるのか。それは、出演をテレビ局と事務所の二者で決めているからでしょう。こうなると、強いほうが弱いほうに無理を言っても言い分が通ってしまう。ですから、仕組みを変えて、癒着を防ぐ構造にしたほうがいいと思いますが、おそらく、なされたところで、あまり話題にならないのではないでしょうか。
知らず知らずに担いでいた悪の片棒
現在、数字を取るのは、叩き要素のある記事だと思います。なので、人をイライラさせる芸能人、知名度の高い人、もしくは権力者の不祥事は好まれますし、SNSでは悪者探しの議論がよく見受けられます。はっきりした悪者がいない、つまり、数字が取れない記事はビジネスとして成立しませんから、取り上げられなくなり、人の興味を引かなくなるから誰も立ち上がらず、問題は放置されるという悪循環に陥ってしまいます。
今回の件で責められるべきは喜多川氏一人だと私は思いますが、忖度、空気の読みすぎ、性暴力への意識の低さなど、知らず知らずのうちに、誰もが少しずつ悪の片棒をかついだ結果、60年も前から指摘されていた未成年の性加害を放置してしまった。ジャニーズ問題は、日本社会のヤバさの集大成なのかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」