朝井さんにとって、登場人物はわが子みたいなものか。
「私が書いた人だけど、産んでない(笑)。出会った人たち、という感覚ですね」
49歳で作家デビューして良かったことは
作家デビューは、49歳。40代半ばに一念発起。大阪文学学校に入って小説を学び、2008年にデビューした。
「作家になってまだ16年なのに、もうこの年齢。まだまだ書きたいことがあるのに(笑)。ただ、人生後半のデビューで良かったと思う点もあって、それまでに実人生の実感がたくさんあること。裏切られたり裏切ったり。いろんな経験をしてきていることは、たぶん創作の糧にはなっていると思います」
朝井さんは、子どものころから本を読むのが好きで、物語の世界に遊んでいたそうだ。
「子どものころ、妹や友達を、よく私の世界に巻き込んでいました。Aちゃんはこの役、Bちゃんはこの役、と役を与えて遊んでいた。いい迷惑だったでしょうね。思えばそのころ、いろいろイメージしたことが、小説の基になっているのかもしれません」
遅咲きだが、作家になるべくしてなったのだろう。それまではコピーライターとして仕事をし、家事もこなしていた。作家となり依頼が次々舞い込み、忙しくなる。
「これじゃ私、死ぬわと思って、夫に料理を教えたんですよ。おだてて育てる時間ないから、もうスパルタで。何もできなかった男が、今や“◯◯作ったから、先食べてるで”って。私はいざ書き始めると机を離れないのをわかっているから。“うん、どうぞ。ありがとう”と答えます」
デビュー当時はダイニングテーブルで小説を書いていた。
「おでんを炊きながらやっていましたけど。どんどん資料が増えて、リビングにもあふれ、そのうち家族のスペースを乗っ取ってしまって」
何度かの引っ越しを経て、今はたっぷり本が詰まった書斎で書いている。
「大画面のデスクトップパソコンじゃないと書けないので、書斎を離れられないの。喫茶店とか旅先とかでは、一切仕事できない。難儀な体質です」
引っ越しのたびに、大好きな植物と猫を連れて移動してきた。ダイニングの窓からはアカシデの梢に鳥たちが遊んでいるのが見え、和ませてくれる。死んでしまった猫のマイケルはよくパソコンの前で寝て、邪魔をしてくれた。
「猫と植物は物心ついたときから好き。予測不能なところがいいんです」
小説の登場人物たちも、朝井さんには予測不能だ。思い思いに動き、物語を紡いでくれる。
「『青姫』の登場人物たちは皆、クセが強くて、自由。歴史小説とファンタジーの両面を併せ持っていますから、ちょっと風変わりな世界かも。でも、彼らは懸命に生きました」
楽しく朝井ワールドにハマれることは間違いない。
最近の朝井さん
「趣味は読書。寝る前に好きな本を読みながら寝るのが幸せ。電子書籍じゃなく紙の本がいい。今は『精霊たちの家』という翻訳もの。分厚いので寝転ぶのは重たいけど。猫のマイケルは26歳で亡くなりましたが、時々、夢に出てきます。目が覚めたときに抱き上げた感触が胸に残っていて、それだけで満たされる。だから次の子を飼うにはまだ踏み切れないでいます」
朝井まかて(あさい・まかて)/1959年大阪府生まれ。2008年『実さえ花さえ』で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、デビュー。『恋歌』で、2013年本屋が選ぶ時代小説大賞と、2014年直木三十五賞受賞。『阿蘭陀西鶴』で2014年織田作之助賞。『眩』で2016年中山義秀文学賞。『福袋』で2017年舟橋聖一賞。『悪玉伝』で2018年司馬遼太郎賞。『類』で2021年柴田錬三郎賞と、芸術選奨文部科学大臣賞など多くの賞を受賞。近著に『青姫』(徳間書店、税込み2200円)