神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で、昨年末から今年にかけて、入居者の転落死亡事件や職員による虐待が相次いで発覚した。
しかし問題は、こうしたホーム内の虐待事件にとどまらない。その他、全国の老人ホームで、不明朗な契約により、入居者が経済的に多大な損失を受けるケースが急増しているのだ。
「この金額は何だろう」
山田栄さん(仮名)は、実母が入居している有料老人ホームから、今年4月に契約更新を伝えられ、その後に届いた請求書の内訳を見て驚いた。
《事務手数料 3万円》
これまではなかった項目と金額がプラスされている。おまけに「払えなければ退去してもらう」と通告も。
山田さんは、ひとり暮らしをしている母親が転倒骨折で要介護となり、「介護サービスも受けられる」と謳うホームに入居させた。
「有料ホームというと高額なイメージがあったけど、介護費用を含めて月々15万円程度ですむというので安心していた」(山田さん)
相談を受けた後見人の社会福祉士の話で、以下のような事情が浮かんできた。
「まず注意すべきは、山田さんの実母が入居したホームは正式な介護付き有料老人ホームではないこと。在宅介護と同様、介護サービスは自分で選択できるはずなんです」
そもそも有料老人ホームには『介護付き』『健康型』『住宅型』の3タイプがあり、介護付きの場合、都道府県による介護保険法上の指定を受ける必要がある。
「山田さんのケースは、介護保険の指定施設ではないため、入居者はケアマネジャーも介護サービスも自分で選択できます。ところが、ホーム側は系列法人から介護保険の支給限度額いっぱいまでサービスをつぎ込み、利益を増やそうとした。それで“介護付き”であるかのような説明を行っていました」(前出・社会福祉士)
また、別の社会福祉士はこう分析する。
「今年4月から訪問介護や通所介護などの基本報酬が大幅に引き下げられました。介護事業者がこれまでの収入を維持するには、訪問や通所の回数を増やさなければならない。でも、あからさまにケアプランを操作すれば、利用者に怪しまれてしまう。そこで事務手数料という曖昧な項目を設定し、減収分の補塡にあてようとしたのではないでしょうか」
老人福祉法、介護保険法に照らしても違法の疑いが強く、山田さんは行政への告発も考えている。同様の被害は枚挙にいとまがない。
厚生労働省が平成25~26年にかけて行った『高齢者向け住まいに関する意見交換会』では、自治体から以下のような事例が報告されている。
《契約時に区分支給限度基準額(介護保険からの給付限度額)ぎりぎりの介護保険サービスの利用を条件としている事例があった。また、同一法人の事業所利用を求める特約条項も見られ、自治体として同条項を削除するよう指導を行なった》
しかし、自治体からの指摘にもかかわらず、先のような“からくり”を駆使するホームは後を絶たない。
介護保険などにかかる市民への情報提供を行う『市民福祉情報オフィス・ハスカップ』の代表・小竹雅子さんは次のように指摘する。
「有料老人ホームを、特別養護老人ホームと同じと考えている人が多いというのも一因。自治体が施設そのものを指定し、介護が必要な人向けに運営されている特養とは異なり、有料ホームは、介護保険の特定施設入居者生活介護(以下、特定施設)という事業者指定を受けていなければ、住居と介護サービスをセットで提供することを契約に謳うことはできません。この場合の介護サービスについては、それぞれの事業者と契約書を交わすことになります。入居前に、この点をしっかり確認してほしい」
取材・文/田中元(介護福祉ジャーナリスト)