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 紛争が絶えない中東地域では、国民の日本への評価は極めて高い。イラクで医療支援を行うNPO法人『日本イラク医療支援ネットワーク』(以下、JIM-NET)の佐藤真紀事務局長はこう語る。

「イラクの人たちは、広島と長崎での原爆投下などで日本が荒廃したことを知っています。そこから武力ではなく経済力で世界有数の大国に成長したことを高く評価しています」

 中東の一般市民は、日本国憲法の第9条を知っているわけではない。だが憲法9条に裏打ちされたことで日本が過去70年も他国を攻撃していない事実は知っている。

 筆者もアフガニスタンでは、どこに行っても「日本は欧米と違い、私たちを攻撃しない」と、パンを持っていけ、ヨーグルトを食えと親切にされたものだ。

 だが昨年、解釈改憲により安保関連法が成立。さらに憲法改正が行われると、自衛隊の海外派兵は日常化するかもしれない。これを海外はどう見ているのか?

「そもそも軍はどの国にもあるから、日本軍の存在自体は疑問視されません。要は、軍がどういう活動を展開するかなんです」

 佐藤さんがこう語るのは、米軍がイラクを「グチャグチャの状態にした」からだ。

 1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争で、米軍は街を無差別攻撃し、医療施設も破壊し、反米勢力との泥沼の戦いで人や医薬品の行き来も制限され、日本でなら救える幼い命がいくつも消えた。

 一般市民は推定10万人超が亡くなり、'11年に米軍がイラクから撤退すると、過激派組織『イスラム国』の進撃で約250万人もの国内避難民が生まれた。国民の反米感情は強い。

「自衛隊が来るにしても、住民を殺したらおしまいです。アメリカ追随ではなく、一線を引く必要がある」

 だが、アメリカと一線を引けるのか。死者を出さない軍行動はありうるのか。これを佐藤さんは恐れる。

 自衛隊派遣の目的のひとつに“在留邦人救出”がある。

 紛争地パレスチナで活動するNPO法人『日本国際ボランティアセンター』(以下、JVC)の今野泰三さんは「パレスチナでも平和外交を続けてきた日本には親日的な人が多い」と語る一方で、「自衛隊には来てほしくない」とブログにつづった。

 もしテロ組織に誘拐され、自衛隊がその救出に来ると必ず戦闘行為が起こり、逆に自分が殺されると予測するからだ。

 例えば'10年9月、アフガニスタンでイギリスの民間人女性が武装勢力に誘拐され、外国軍が救出に向かったが、その作戦中に女性は爆死した。

 アフガニスタンで'05年から'12年まで活動してきたJVCの長谷部貴俊事務局長は、大切なのはまず交渉だと断言する。

「アフガニスタンでは外国人の誘拐は幾度も起きています。でも、地元の長老や赤十字国際委員会などの交渉で解決しています」

 佐藤さんも長谷部さんも恐れるのは、日本が70年も積み上げてきた平和国家の旗を降ろし、人々の憎しみの対象になることだ。

取材・文/樫田秀樹(ジャーナリスト)