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 ネット配信の連続ドラマ『火花』で神谷役を演じる波岡一喜。

「今朝クランクアップして、さっき熱海から東京へ帰ってきたんです。そう! 徹夜ですよ~。素晴らしいでしょう(笑)」

 又吉直樹が書いた原作は第153回芥川賞を受賞し、250万部超えの大ヒット。オファーが来たときは、どんな気持ちだった?

「めちゃくちゃ、うれしかったです! もともと所属事務所の社長から、神谷と僕は似たところがあると言われていて。いやいや、そんなことあるまいと思って原作を読んだら、だいぶ近いところだらけでした(笑)」

 主人公の徳永(林遣都)に弟子入りを申し込まれた神谷は、芸人として天才的な才能を持ちながらも、人としてはクセのある人物。

「撮影前はカリスマ的な存在を演じることが不安やったんですけど、万人に向けてではなく、徳永に対してだけ“すごい人”になればいいと気づいて。それに、遣都とは'08年の映画『ラブファイト』で共演して以来、ドラマと同じような関係だったので、これはいけるなと思いました」

 ドラマは序盤、売れない芸人の日常をリアルに描いている。早稲田大学を卒業後、しばらく下積み時代を送っていた波岡にとって、このシーンは自身と重なる部分が大いにあったという。

「彼らと一緒で変なうんちくと、絶対に売れるという変な自信だけはありましたね。でも現実には、仕事もお金もない。缶ジュース1本買うのも迷うくらいでした。ただただしんどくて。30歳までに俳優でメシ食われへんかったら、やめようと決めていました」

 下積み時代の仲間について聞いてみた。

「福士誠治と斎藤工と劇団SETの大竹浩一の3人は家族のような存在ですね。4人で演劇ユニット『乱-run-』も組んでいるけど、最近はメシ食うスケジュールすら合わなくて。会えないぶん、現場で誰かの話が出たら、LINEで報告し合っています」

 転機になったのは'05 年に出演した井筒和幸監督の『パッチギ!』。当時を振り返り……。

「あのころの僕はトゲトゲで、井筒監督にしごかれるたびにマジでシバいたろうかと思っていました(笑)。今は大好きやし、父親みたいに思っています。監督の誕生日会なんかもしますね」

 以来、『クローズZERO』などに代表される不良高校生、朝ドラ『ちりとてちん』で演じた落語家など、出演作ごとに爪痕を残してきた。キャリアを積み重ねていくなかで、変わったことや、逆に譲れないことって何かある?

「僕は日本男児というか、侍みたいなところがあるので“筋を通す”ことは譲れないですね。あと、“負けず嫌い”。子どもが生まれてだいぶ丸くなりましたけどね。昔は自分の中にひっかかるスイッチが山ほどあって1個ずつ腹を立てていたけど、今はあんまり怒らないようにしています」

 私生活では'06年に結婚。8歳と5歳の2児のパパでもある。子育てについて話を振ると、こんなエピソードが飛び出す。

「実は最近、娘が習い事の練習を全然しないので、それでは夢を叶えられないと怒ったんです。そうしたら娘が泣いちゃって。その姿を見たら、親なのに“なれない”と口にするのはダメだなと反省して。“パパが間違っていた。今から本気でやれば、空も飛べる”と伝えました。“それは無理”と嫁は言っていましたけど(笑)」

 今作は俳優・波岡一喜の魅力を存分に感じられる作品。代表作になるといってもいい?

「それはもう! これまでにない“超ド級”の出演作になりました。スタッフや共演者たちをとても尊敬していますし、すごく成長させてもらえました。ほんまに絶対に面白い作品になっているという自信もあります!! ぜひみなさん、見てください」

ドラマ『火花』

 売れない芸人の徳永(林遣都)は、熱海の花火大会で出会った先輩芸人の神谷(波岡)に強く惹かれ、弟子入りを申し込む。神谷の伝記を書くことを条件に師弟関係を結んだ2人だったが……。

 『Netflix』のオリジナルドラマとして、6月3日(金)より190か国にて全10話を同時配信。原作の持つ空気感がそのまま映像に。

撮影/伊藤和幸