“かたより”があるもののひとつが、脳の“ワーキングメモリ”だ。何かを実行するとき、必要な情報を一時的に記憶しておく機能だが、ADHDの人はこれが小さく、過去の経験をうまく生かせない。目の前の情報だけで判断して行動するため、不注意に同じ失敗を繰り返してしまう。
「よく遅刻をしたり、課題が締め切りに間に合わなかったりするのは、段取りや時間の概念がわからず、計画を立てて物事を実行できないからです。でも、ADHDの原因はまだはっきりと特定されておらず、わからないことが多い。子どもの診断に来てその親もADHDだったとわかる場合も多く、遺伝しやすいといわれますが、遺伝子は見つかっていません」(宮尾先生)
■責めず褒めて共感、有効な助言をして
ADHDの症状がある子どもたちは、親や教師から何度も同じ注意を受け、だんだんと自信を失って、思春期を迎えるころにはほかの子と違ってなぜ自分ができないのか知りたくなる。
「こうした時期に自分はダメな人間だと思い詰め、ひどい場合はうつ病など二次的な障害を併発するおそれもあります。大事なのは、社会で無理なく暮らせる大人になること。そのために家族や周りの人のサポートが必要です」(宮尾先生)
基本は、責めるのではなく上手に褒めることでよい行動へと導くこと。「〇〇はダメ」ではなく、その子が困っている点を聞いて共感し、「こうしたら」とひとつひとつアドバイスする。
そして宮尾先生によれば、どのような困り事にも克服する対策法があり、治療ではそうしたアドバイスをしながら、場合によって薬を処方することで、苦しみは明らかに減っていくという。
近年、ADHDと診断される人が増えたのは、ADHDが広く知られるようになったことに加え、学校やご近所のルールが厳しくなって昔の“ちょっと変わった普通の子”が生きにくい社会になったことが一因と考えられる。
「ADHDは、昔ならやんちゃで忘れ物が多くて少し変わり者といわれるだけの普通の子。あまり特殊な人と思わないで、上手にサポートしていきましょう」(宮尾先生)
だがADHDは学習障害や行為障害を併せ持っているケースも多いほか、アスペルガー症候群などと症状が似ている点があり、1度医師の診断を受けることをおすすめしたい。