近年はSNSの充実で、地方からも全国的な人気を獲得するコンテンツが誕生している。これからも確実に地方からスターは生まれ、それらの命は、東京のエンタメ観では見つけられない場所で産声をあげています。そんな輝きや面白さを、いち早く北海道からお届けします。(北海道在住フリーライター/乗田綾子)

 先日、札幌シネマフロンティアにて行われた映画『凪待ち』の完成披露上映会に参加してきました。

 実はこちらの上映会は、同作で主演を務めている香取慎吾さんの舞台挨拶つき。香取さんが北海道で客の前に立つのは、SMAPのコンサート以来、実に5年ぶりのことで、もちろん抽選を経て奇跡的にチケットが当たったひとりのSMAPファンである私も、それはもう、そわそわと前日からそのときを楽しみにしていました。

 しかし、実際に上映会が終わって数日たった今。本音を打ち明けると、舞台挨拶時の香取さんの記憶が、あまり頭に残っていません。

 誤解しないでほしいのは、その理由というのは決してネガティブではなく、むしろ幸福なものである、ということです。

 映画『凪待ち』における香取慎吾は、結果としてファンの一時の高揚に大きく勝るほど、素晴らしい表現者としてそこに存在してくれていました。

当時18歳だった彼の演技に衝撃

 話の本筋に入る前にまず、香取さんの俳優業に対する私個人の認識を少し説明したほうがいいかもしれません。そもそも私が香取さんの活動にガ然、注目するようになったのは、1995年の夏、フジテレビ系で放送されたサスペンスドラマ『沙粧妙子-最後の事件-』がきっかけでした。

 浅野温子さんの主演作として制作されたこのドラマは、女性刑事が追う連続猟奇殺人事件がストーリーの柱となっているのですが、その中で若き猟奇殺人犯を演じていたのが、当時まだ18歳だった香取さん。

 実は全11話放送された『沙粧妙子-最後の事件-』の中で、香取さんは第1話にしか登場していない、ゲスト出演者になっています。

 しかし当時、若手アイドルのひとりでしかなかった彼が見せた、狂気の演技というのは、かなり衝撃すさまじく、そのインパクトは後に1995年度の第33回ギャラクシー賞・テレビ部門において奨励賞に選ばれるほどでもありました。

 しかし、その年の秋クールで心優しい知的障害者(TBS系『未成年』)を演じた後は、所属していたSMAPの大ブレイク、そしてその中で醸成された“慎吾ちゃん”というパブリックイメージもあり、香取さんは次第にキャラものと評されるような、コミカルでわかりやすい主人公をメインに演じるようになっていきます。

 実際、それはビジネス戦略としては正しかったし、後に香取さんは期待に応える形で『慎吾ママ』や『西遊記』などの代表作も生みだしました。

 しかし18歳で名女優・浅野温子と見事にタイマンを張っていたことを知る者にとって、彼が年々キャラ俳優としてしか評価されなくなっていくことは、やはりどこか惜しい気持ちも、残り続けていました。