私が最後にジャニー喜多川さんをお見かけしたのは、6月の末のこと。

 東京・日比谷のシアタークリエ会場内だった。同劇場ではジャニーズJr.がユニットごとに出演する『ジャニーズ銀座』を上演中で、当日はユニットのひとつである7MEN侍の公演が行われていた。

 一般的には、“ジャニーさんは姿を見せない謎の人”のようなイメージが強かったと思う。でも実際は前述のクリエや帝国劇場、日生劇場といった会場によくいらしていたし、ロビーでゲストに応対するお姿も頻繁(ひんぱん)に見られた。

 ただ、いつもキャップをかぶり、華美で目立つ装いとは真逆の服装でさりげなくそこにいたので、あれがジャニーさんとは気づかない人も多かったのではないか。かと思えば、時にとてもお茶目な出で立ちで微笑ませてくれたこともある。

 2004年、原宿・新ビッグトップでNEWSとKAT-TUN主演の舞台『SUMMARY』が上演された際は、ソックスに金のメッシュサンダルをはいてロビーを闊歩(かっぽ)しておられ、思わず「えっ、かわいい!」と声をあげる人もいた。

 彼が誰なのかを知っているファンたちも、ぶしつけに話しかけたり取り囲んだりすることは決してなかった。特に会場で見かけるジャニーさんは、私たちにとって“ひそやかな神様”のような存在だった。

 だから、“神様”を見かけるとそっと胸の中で「自担をデビューさせてください」「自担をユニット入りさせてください」などと好きなタレントの栄転をお祈りしたり、単なる事務所の社長さんとは違う眼差(まなざ)しで見ている人が多かったと思う。

 そんなジャニーさんが、誰よりも楽しみにしていたであろう2020年オリンピック・パラリンピックを目前にみまかられたことは、残念でならない。

 ジャニーさんは、舞台『ジャニーズ・アイランド』、ミュージカル『少年たち』の中で、繰り返し“平和の祭典”であるオリンピックのすばらしさ、幸せを破る戦争の醜さを説いてきた。現代の日本で「2度と戦争をしてはならない」といっても、なかなか自分ごととしてとらえるのは難しい。ところが、ひそやかな神様は、彼の擁する少年たちをもって、その悲惨さを伝え続けた。

 King & Prince、SixTONES、Snow Manといった、私たちファンが愛してやまない人たちが、ときに少年兵の姿となり、家族のため、国のために戦い、命を落とすさまを見せられ、「戦争というのは、大好きな人をこんなひどい形で失うことだ」と、胸に刻みつけてくれた。

 愛する人のむごい姿を見て、何も考えない人はいまい。だからこそ、各国が“銃”ではなく“スポーツ”で競い合うオリンピックを尊び、大切に思っていたのではないか。