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 安倍首相は参院選公示日の6月22日、震災の爪痕が残る熊本城を背にマイクを握った。

「私は、どうしても熊本から第一声を発しようと考えました。震災後、一生懸命に復旧に向けて頑張っておられる熊本のみなさまを少しでも励ましたい。熊本の復興に対する私たちの強い意志を全国に発信しよう。そう考えたのであります」

 7月10日の投開票日に向け、改選121議席を争う与野党の舌戦が全国各地で続く。

 首相の第一声に偽りはないと信じたい。しかし、2013年7月の参院選と、翌'14年12月の衆院選では、東日本大震災の被災地・福島で第一声を発し、いずれも選挙戦勝利に結びつけている。熊本では“単なるゲン担ぎだったのではないか”と疑う声も出たという。

「被災者が求めているのは首相の演説ではない。やる気アピールでもない。早期復興に向けた目に見える具体的な支援だ」(地元記者)

 懐疑的な目で見られるのは、首相の不誠実な態度と無関係ではないだろう。昨年9月、安保法制の強行採決が猛批判を浴びた。

 国会前を埋め尽くした大規模デモで怒りの民意が示された。首相は法案に反対する国民に対し、「粘り強く丁寧に説明していく」と約束した。

 しかし、行動は伴わなかった。今年3月、安保法制は施行された。

 絶好の説明機会である参院選に突入しても、首相は頑なに口を開こうとしない。安保法制の必要性を説くどころか、多くの憲法学者らが「違憲」と断じたことについて反論・釈明する気配もない。

 逆に首相は熊本の第一声で、脅すような選択を迫った。

「まだ確かにアベノミクスは道半ばであります。だからといって、この政策をやめてしまえば、暗く停滞した(旧民主党政権)時代に逆戻りすることになります。選挙戦で問われているのは、この経済政策を力強く前に進めていくのか、あるいはやめてしまって、若い人が頑張っても就職できなかった暗い時代に逆戻りするのか、それを決める選挙であります」

 当然、野党は黙っていない。特に幹部の応援演説が鋭さを増している。

 民進党の野田佳彦元首相は、地元・千葉の応援演説で「アベノミクスは害毒をバラまくだけであって、争点じゃないんですよ」と説明した。

「3年前も“アベノミクス”と言った参院選。景気よくなりましたか? ならない。じゃあ、国会でいちばん彼らが力を入れたのは何ですか。特定秘密保護法の強行採決です。衆院解散のときも“争点はアベノミクス”と言っていましたね。やったのは何ですか。安保法案の強行採決じゃないですか。今回もまたアベノミクスで争点をごまかして幻惑している。やりたいことは憲法改正ですよ」(野田元首相)