昨年話題になった「保育園落ちた日本死ね」に今も7割の女性が共感するとの調査結果が

「東京大改革」を掲げて、都議会の「伏魔殿」ぶりを白日に晒(さら)し、秘密体質の一掃に力を尽くす小池都政だけど、肝心の政策は「都民ファースト」と言えるのか? 小池都知事の政策を項目別に検証してみた。待機児童解消のための政策とは──。

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 待機児童対策は緊急課題でもある。小池都知事や、代表を務める「都民ファーストの会」でも大きく打ち出している。保育施設の定員を増やし、市区町村と民間事業者への財政支援が中心的な政策だ。

 待機児童解消のために、都では事業所内保育所の拡充に力を注ぐ。地域に開放した場合に設置費や運営費などを補助するほか、シンボル事業として都庁内保育所『とちょう保育園』を昨年10月にオープンさせた。

 待機児童問題を取材する福祉新聞の鮫島隆紘記者は「待機児童は、入所資格があるのに保育所が不足し、入所できずに待機している児童のこと」と言い、本来は、施設や人員が国の基準を満たす「認可保育所」か、東京都独自の「認証保育所」に入所するようにすべきと主張する。

 ’16年4月現在で、全国の待機児童は2万3553人。このほぼ3分の1、8466人が都の児童数。ここ数年は8000人前後を推移している。

 厚生労働省は’15年度から、待機児童のカウント数を全国統一するために、その定義を新たにしている。

「育児休暇中か、求職活動を休止中、または特定の保育所を希望している場合、自治体が補助する保育サービスを利用している場合も待機児童に含めるようになりました」(鮫島記者)

 保育研究所(全国保育団体連絡会)の村山祐一所長は「働く女性が増え、預ける子どもは1歳児から増えています。学校に入学するまで施設に預けたいというのが親のニーズ」と話す。

 待機児童解消のため、第一に、施設をどう増やすのかがポイントだ。小池都知事と都民ファーストの会では、前述した事業所内保育所に加えて都有地や空き家の活用を打ち出している。

 現状では、都内の「認可保育所」の定員は約23万人、駅前保育や小規模保育などの都独自基準の「認証保育所」は定員約2万2000人の計約25万3000人(いずれも’16年4月現在)。定員を増やしたことから、申し込み者の9割近く、認可保育所の基準では85%が入所している。

 とはいえ、待機児童数は自治体間で差がある。例えば、千代田区は0人だ。小池都知事のお膝元・豊島区も、’17年4月1日現在で待機児童が0になったと発表した。

「ベビーシッター派遣を認可事業とし、推進した成果だ。ただ、特定の保育所だけを希望したり、認証保育所を利用しつつも認可保育所の内定しない135人は除いています(鮫島記者)

自治体間で保育士の奪い合い

 保育士をどう確保するかも大きな課題だ。

 厚生労働省によると、都内の保育職員の平均年収は369万円。全業種613万円の約6割でしかない。

「これまで保育士の給料がなかなか上がらなかった。’00年度以降、微減が続き、’16年度になって’00年度の水準に戻った」(村山所長)

 保育士には非正規職員として働く人が多く、正規職員でも実質的にパートタイム労働で、低賃金にあえぐ人は多い。

「子どもと接する時間が8時間とすると、親の対応はその別の時間に常勤の正規職員がすることに。非正規職員を雇って頭数をそろえても、正規職員にしわ寄せがくる。そのため正規にはなりたくないという声も出ています。非正規に事務を任せようとすると、負担が増えるために辞めてしまう。悪循環です」(村山所長)

 このため都では、’15年度から保育施設の運営事業者に対し、保育士1人当たり2万3000円を補助している。国も保育士の給料の助成を拡充したことから、’17年度から国の補助分と合わせて1人当たり月額4万4000円相当を補助。これでようやく幼稚園教諭の賃金水準と並ぶ。

 こうした動きは周辺自治体にも影響を及ぼす。千葉県や埼玉県の市町村では、東京に負けじと保育士の住居を借り上げて一定期間、補助するようになり、保育士の奪い合いが起きている。

 保育の質はどう担保するのか。

 都民ファーストの会の政策では、小規模保育の受け入れ年齢を現行の“2歳児まで”から“5歳児まで”に広げようとしている

小規模保育所は基本的には1~2歳児の受け皿。これを拡充する規制緩和をしても、年齢に応じた活動ができません」(村山所長)

 内閣府子ども・子育て本部によると、昨年の全国の保育施設での死亡事故は13件だ。うち認可外保育所は7件。規制緩和が死亡事故のリスクを高めることにならないか不安だ。

 質・量ともに保証できる保育施策が求められている。

取材・文/渋井哲也…ジャーナリスト。『長野日報』を経てフリー。自殺、いじめ、教育問題など若者の生きづらさを中心に取材。近著に『命を救えなかった─釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(三一書房)がある